熊川宿の古民家再生を手掛けるデキタの時岡壮太社長(左から3番目)とスタッフ=福井県若狭町熊川

熊川宿の食をアピールするギフトボックスを箱詰めするデキタの時岡壮太社長(中央)とスタッフ=福井県若狭町熊川

古民家宿「八百熊川」にあるかまど。宿泊者が調理体験できる=福井県若狭町熊川

 若狭と京都を結ぶ鯖街道の宿場町として栄えた福井県熊川宿(若狭町)。江戸末期から明治、大正とそれぞれの面影を残す民家や商家が並び、清流をたたえた用水路が潤いを運ぶ。福井県内で初めて国の重要伝統的建造物群保存地区に指定された町並みは、過疎高齢化でやがて朽ちる可能性もあった。

 今、空き家を改修しオープンした宿や飲食店、セレクトショップなどが新たな息吹をもたらしている。かつて開かれていた市も、手作り雑貨や伝統工芸品、朝どれ野菜が並ぶ「マルシェ」としてよみがえった。旅人や行商人を迎えたように、若い店主と観光客の会話が弾む。往時さながらに人が動き、文化が交わる。

 町並みを守る住民と手を携え、新風を吹き込んでいるのは、古民家を生かした施設開発などを手掛けるコンサルティング会社「デキタ」。2018年にシェアオフィスを開設、翌年には自社の拠点を移し注目を集めた。社長の時岡壮太さん(41)=おおい町出身=は、持続可能なまちづくりへ歩みを止めない。「新型コロナウイルス禍で観光一本でいくのは不安だと肌で感じた」。食をテーマに新産業創出を見据える。

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 交通や物流の変化で衰退の一途をたどる熊川宿(若狭町)ににぎわいを取り戻そうと、住民は行政と一体となって国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)を目指した。1996年に指定を受け、電線の地中化や水路復元、民家や街路の改修など景観保全に取り組み、年間約40万人の観光客を呼び込むようになった。

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 それでも「滞在時間はわずか1時間。働き口は少なく人口流出で空き家は増えるばかりだった」。若狭熊川宿まちづくり特別委員会の宮本哲男会長(68)は、これまでの状況を振り返る。空き家対策に長年取り組み、移住希望者向けの冊子作製や空き家活用を所有者と交渉するなどし、受け入れの素地をつくってきた。

 2018~19年にコンサルティング会社「デキタ」が東京から拠点を移す際も協力した。宮本会長は「熊川宿は外の人を受け入れやすい宿場町特有の気風がある。一緒にまちづくりに取り組めてうれしかった」。

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 熊川宿には、重伝建だけでなく、日本遺産に選ばれた鯖街道の歴史もある。「素材は超優等生で外に売り出せると思った。挑戦しがいがあった」。デキタと社長の時岡壮太さん(41)=おおい町出身=の存在は、地元と移住・起業希望者をつなぎ、新規出店が進む端緒となった。

 18年10月にカフェを開いた宇野早希さん(32)=若狭町山内=は「盛り上がってきている印象があり出店を決めた。ここ数年でさらにお店が増え、相乗効果もある」と話す。

 時岡さんは、かつての宿場町という熊川宿のブランドを豊かな食文化に触れられる場として再構築することに取り組む。20年に1棟貸し切りの古民家宿「八百熊川」、21年にECサイト「八百熊川ストア」を開設した。

 梅干しや米などをセットにした「里のもんお届け便」と、アマダイの灰干しなど干物4種類が入った「海のもんお届け便」を販売。商品やパッケージは近隣の事業者やデザイナーに依頼している。「どれも質が高い。口コミが広まり若狭ファンが増えれば、ますます地域にお金が落ちる」

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 デキタも参画し21年11月に設立した第三セクター「クマツグ」は、まちづくり特別委員会などと連携し、空き家の取得と改修に取り組む。出店希望者への賃貸のほか、食品加工場を設け、熊川葛の甘味やお茶を作る予定。現在約40ある空き家が飲食店や土産物店などに生まれ変わる将来像を描く。

 熊川宿は雪が多い冬場は客足が鈍る。新型コロナウイルス禍で観光客が減り、マルシェも休止を余儀なくされた。「県外客だけでなく、地元や県内の人が集うことが大切」。宿場町の雰囲気にあった食器など日用品にも物販の幅を広げ、観光地という非日常と、普段使いの“生活商店街”が共存する場を目指す。

 クマツグには、熊川宿の「文化を継ぐ」「次を考える」の意味が込められている。時岡さんは言う。「集落の基礎体力をつける必要がある。食以外の体験事業などを複合化し、どんな時代でも生き残れるようにしたい」

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 【ふくいをヒラク~踏み出すその先へ】人の生き方や地域の在り方が多様化している。コロナ禍の経験や気付きを経て、その先へと踏み出す福井県内の動きを紹介する。