福井県坂井市の東尋坊

 新年を間近に控えた12月上旬、2日間連続して東尋坊(福井県坂井市)の岩場に立った男性2人の自殺企図者を保護しました。

 一人目は、薄暮時のことです。曇った日で北風が強く、寒さを肌に感じる日でした。観光客は岩場を速足で見て歩き直ぐ帰ってしまっていました。東尋坊で一番の見どころといわれている海抜約25メートル程ある断崖絶壁付近のベンチに男性の姿を見つけました。男性がマスク姿でショルダーバックを背負っていました。何か考え事をしていたようなので「こんにちは、どうされました…?」と尋ねたところ、しばらく無言でしたが細々とした声で「お金も無くなった。仕事も無く両親も亡くなり頼れる人もいない。この後どうしょうか考えていたところです…」。

 私は「自殺しに来たんでしょ! 私たちはここでボランティアで人助けをしている。何とかしてあげるから相談所まで来る…?」と聞いたところ、頷いたため500メートルほど離れた所にある私たちの活動拠点「心に響くおろしもち」店まで来てもらって話を聞きました。

 男性は関西地方に住む40代で、母親は15歳の時に病死し、父親も18歳の時に病死。両親は生活保護を受けており、何の資産も財産も有りませんでした。姉との2人きょうだいでしたが、20代の時に窃盗事件を犯して逮捕されたことから、それぞれ離れ離れになり、20年以上も音信不通の状態でどこに住んでいるのか分からないとのことでした。男性はパチンコ店や風俗店、ハウスクリーニングなどの仕事をしてきましたが、職場でパワハラに合い長続きせず、名古屋や大阪へ行って炊き出しのお世話に。路上生活をし、ハローワークへ行くも仕事が見つからず、これまで貯めていた50万円ほどのお金もネットカフェなどで底をつきました。現在、所持金は500円。また冬場を迎え、寒さにも耐えないといけないことから生きていくことが面倒くさくなり、自殺の名所である東尋坊で人生を閉じようと考えたとのことでした。「もし今後、住み込みで働けるところがあったら仕事は選びませんので働きたいです…」と言ってくれたため、シェルターで生活してもらっており自立に向けて動き出しました。

 二人目は、気温6度ほどしかなく冷たい雨が落ちる日でした。昼頃、スーツ姿でずぶ濡れになった男性が突然「心に響くおろしもち」店に入って来て、私の顔を見るなり泣き崩れました。「自殺をしに来たのですが死ぬのが怖く死ねませんでした…」と言って泣きじゃくるのです。そこで私たちの女性スタッフ2人がタオルで髪や衣服を拭いたり、寒さで震える体に温シップ2枚を貼って温まってもらい、気持ちを落ち着かせたところで話を聞いたのです。

 北陸地方に住むこの40代の男性は、自殺を考え昨夜も精神科医でもらった睡眠薬10錠を飲み干したものの死ねなかったため、もうろうとした状態で今朝11時ころ降雨の中を東尋坊の岩場に立ったのです。しかしその時は海が荒れ狂っており、「約30分間飛び込むチャンスを見図っていたが寒く体が震えだし、怖くなり飛び込めなかったのです…」と言うのです。

 そして自殺に追い込まれた理由について語ってくれました。男性は母親が40年前に病死し、父親は何も仕事に就かず祖父母の年金で生活していました。しかし、祖父母が亡くなってから、私たち子どもの承諾も無く、後妻を入籍して同棲を始めたのです。そして男性に「家賃を払え…」とお金を無心するようになり、それを断ると今度は男性の妻にセクハラをしてきました。妻は耐えかねて4年前に出て行ってしまいました。以来、親子としての愛情は全く感じなくなりました。父親は警察へ「息子が無断で家に入り込んでいるのだから追い出してくれ…!」と警察に相談をしに行く始末。警察に相手にされないため、今度は男性の車に町内の人が見えるようにして誹謗文章の張り紙を張り付けるなどの嫌がらせ行為を繰り返しだしました。男性も耐えかねて警察へ脅迫、器物損壊、名誉棄損、妻に対するセクハラ行為について被害届を出そうとしましたが、警察は受理してくれず「絶対に手を出すな!」と言うだけでした。こんな騒動が約4年間続いており、「親を殺す」ことも何度も考えたといいます。しかし、事件を起こすわけにもいかず、もう限界だと考え自殺をしに来たと言うのです。

⇒東尋坊で活動する「心に響く文集・編集局」ってどんなグループ

 本人は「警察が被害届を受理しないのは許せない」と考え、法律事務所で相談するも「家族間の問題だから調停がふさわしい」と取り扱ってもらえなかったそうです。私も知り合いの複数の弁護士に相談したところ「一つ一つは事件ではあるが、訴訟を起こしても根底にある問題の解決にはならず、訴訟は適さない」との回答を受けました。その旨を男性に伝え、「長男だから、いずれ父親の財産は転がって来る。今は耐えて、妻と共に別居生活に向けて生活を立て直すこと。」を提案しました。年の瀬に死を決意した2人。それぞれが抱える悩みはすぐに解決できるようなものではありません。しかし、少しでも今より幸せな新年になることを祈らずにはいられません。

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 福井県の東尋坊で自殺を図ろうとする人たちを少しでも救おうと活動するNPO法人「心に響く文集・編集局」(茂幸雄代表)によるコラムです。

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