私たち「心に響く文集・編集局」は福井県坂井市の名所・東尋坊で自殺防止に取り組む団体です。2004年4月、県からNPO法人として認証を受け、地元に活動拠点として茶房「心に響くおろしもち」を開きました。パトロールを欠かさず、岩場でたたずんでいる人たちに声掛けして、抱えている悩みを聴き取り、一緒に解決に取り組んでいます。

茶房「心に響くおろしもち」の店内=福井県坂井市の東尋坊商店街

代表は元警察官

 理事長の茂幸雄は、2004年春まで東尋坊を管轄する現:坂井西警察署で警察官をしていましたが、その時、数多くの自殺企図者を警察で保護し、家族などに引き渡していました。しかし、警察で保護しても持ち時間が法律で決まっており、さらに私生活や民事不介入など法律上のバリアがあるため十分な対応ができませんでした。警察で保護しても悩みを抱えたまま家族に引渡されているため、帰宅後再び別の場所で自殺を企てる現実に遭遇してしまったのです。そこで「民間人でなければ抱えている悩みを取り除く活動はできない」と、警察権の限界を感じました。しかし、自殺企図者の「まだ死にたくない! 誰か助けて下さい! できるものならもう一度人生をやり直したい…!」と叫ぶ「生の声」を聞いた時、「誰かが彼らのこの叫び声に応えないといけないでしょ…!」との問いに「私しかいない」と決心しました。ちょうど定年退職のタイミング。仲間を募り東尋坊を活動拠点として「自殺企図者の捜索、発見、保護、抱えている悩みを取り除く、再起できるように環境を調整する」などに取り組む活動を始め、現在に至っています。

メンバーは平均年齢70歳以上

 コアメンバー(理事長・事務局長・顧問)の声掛けで、現在12人がパトロール隊員として参加しています。前職は、元警察官が5人のほか、元教員、元会社員、元団体職員、福祉関係パート職員、農業、新聞配達員などで、平均年齢は70歳以上になります。隊員の多くは、定年退職した人の集まりとなっており、残りの人生を何か社会のために貢献したいとの熱い思いを持っている人たちの集まりです。

日々のパトロール活動

福井県坂井市の東尋坊

 午前11時頃までに日直の当番3人が東尋坊商店街にある茶房「心に響くおろしもち」にやってきます。ここは私たちが「開かれた公共の場」と呼んでいる場所です。午前中はお餅を食べに来てくる人たちのためにお茶を沸かしたり、店舗内の清掃、仕込みなどと仕事はいろいろです。午前11時から1人ずつが交代で約1時間のパトロール開始です。コースは東尋坊周辺約1.5kmある「荒磯遊歩道」。日本海を望む段差の激しい道で、けっこう体にこたえます。昼間は飛び込む人はほとんどいませんが、日没時間になると飛び込む人が現れるため、一日で一番緊張するパトロール時間帯になります。

 私たちのパトロール開始時間はお昼ごろになるため、夜中に飛び込んだ人の死体の引き上げを警察やレスキュー隊の作業は終わる頃になります。そこで私たちの活動は昨夜自殺した人の遺留品(遺書・ショルダーバック・ 靴など)を発見することがあり、警察に届けたことも何回かあります。また、残りの2人は夜間に店にかかってきた電話相談の着信履歴を調べて相手に電話をかけ、電話した要件を確認して対応します。すなわち電話相談の対応もしています。

自殺企図者を保護した場合

 自殺を決意して東尋坊を訪れる人の中には、家族や友だちの関係を断ち(断)、無一文の状態、即ち片道切符で来ており(捨)、自分の住居やアパートを放置 (離) して来る人もいます  が(断・捨・離)、こんな人の場合は福井市内にあるシェルターで緊急に休養してもらうケースもあります。この人には、活動拠点である茶房「心に響くおろしもち」へ来てもらい、隊員とのコミュニケーション(カウンセリング)を図ったり、お客さんへのお茶出しの接待やパトロールにも同伴してもらっています。

 遭遇した人に対する対応は理事長が中心になって行っており、最大の課題である「抱えている悩み事を取り除く」ための対外的な活動はコアメンバーにより県内外へ赴きます。今までに行ったことのある都道府県は北海道・東京・千葉・栃木・長野・愛知・岐阜・三重・岡山・ 新潟・富山・石川・滋賀などで、遠距離であっても奔走します。その相手方は各家庭や学校、会社、行政機関、法テラス…。あらゆるところに行き、場合によっては自殺企図者を同伴して赴いて対応 (注意・指導・警告・環境の改善要求など) をしています。

私たちの活動の財源

 活動開始から4年間は私費を投じてボランティアで取り組んできました。その後自殺対策基本法が施行されてからは各自治体に予算が付くようになり、地元・坂井市からの委託事業として一カ月25日間、一日4時間のパトロール費が出るようになりました。しかし、私たちはお金目的ではありません。この活動は4時間で終わることはなく、従来通り一日約8時間以上活動しています。市からの委託になったため、雪の日も雨の日も天候には関係なく従事しています。また厚生労働省からも補助金を頂いてます。

活動の成果

 活動開始時の東尋坊における自殺者数は、過去10年間で平均年間25人でしたが、現在半分以下の10人程度で推移しています。私たちの活動によって、これまでの18年間弱で745人(2021年11/5現在)の自殺企図者の命を繋いできました。

 うれしいことに活動に対する反響は大きく、海外17ヵ国の新聞やテレビ局などのマスコミから取材を受けてたり、カナダ人やフランス人の映画監督による映画化やインドネシアから来た2人の外国女性による一週間の宿泊体験研修を引き受けました。また、日本国内でも多くのテレビ局の取材を受けており、マンガ、落語、演劇にもなりました。

私たちのモチベーション

 自殺対策基本法にもある通り、「自殺は本人にも責任はあるが、その多くは追い詰められた末の死である」とあります。このことから自殺者は社会的・構造的に追い込まれている殺人事件の被害者であり、この人たちを救い支援する我々の行為は「人命救助」であると考えています。だからこの弱者の命は何らかの方法で救われなければいけないと思っています。

茶房「心に響くおろしもち」の外観=福井県坂井市

 また、再起を果たした人が訪問して来たり感謝の手紙が送られてくることも多くあります。この時の気持ちは自分の子どもたちが成長して訪ねて来てくれたとの感覚になり一番の喜びを感じる時です。

その他の活動実績

・悩み事相談所「喫茶去」を開設 (福井西口駅前から東尋坊に移転)
・ドローンを飛行させ岩場をパトロール
・「認環塾」を開催 (認知行動療法・環境調整療法の略称 :7回にわたり講演会を開催)
・悩み事を取除くため全国各地の関係者宅を訪問し、環境調整を図るための要求行為
・シェルター6部屋を確保
・命のゲートキーパー養成講座を開催
・サマー・ボランティア活動の受け入れ
・中・高校生を対象にした出前講座を開催
・図書の出版活動 (現在9部を出版)
・講演活動
・現在休眠中ですが、「自殺のない社会づくりネットワークささえあい」(代表茂幸雄)を東
京・湯島に事務局を設置し、全国9か所の自殺多発場所 (自殺の名所)の視察・研修・
関係機関との協議会を開催したり、「自殺未遂者と語る会」「シェルター・フオーラム」「自殺多発場所での活動者サミット」「フォワード・フオーラム」などのシンポジウムを開
催してきました。 
(この時の資金は、米国ゴールドマンサックス、ファイザー製薬、シチズン時計などから助成金を受けて実施しました。)
 

 ⇒コラム「『死にたい』に寄り添って 東尋坊の現場から」の記事一覧を読む

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 福井県の東尋坊で自殺を図ろうとする人たちを少しでも救おうと活動するNPO法人「心に響く文集・編集局」(茂幸雄代表)によるコラムです。

 相談窓口の電話・FAX 0776-81-7835