地村夫妻が拉致された小浜公園展望台で、進展のない拉致問題の現状に危機感を示す救う会福井の森本信二会長=福井県小浜市青井

 北朝鮮による拉致被害者、福井県小浜市の地村保志さん、富貴恵さん夫妻=ともに(66)=ら5人が帰国して来年で20年になる。政府が拉致被害者として認定する17人のうち、12人は北朝鮮に残されたままだ。発生から40年以上がすぎ、被害者やその家族の高齢化が進む。福井県内の関係者は「歴代政権の『拉致は最重要課題』という言葉はうたい文句に終わっている」とし、衆院選での北朝鮮対応を巡る各党の論戦の低調さに危機感を募らせる。

 昨年2月、拉致被害者の有本恵子さん=失踪当時(23)=の母嘉代子さん(94)、同6月には横田めぐみさん=失踪当時(13)=の父で拉致被害者家族会初代代表の滋さん(87)が亡くなった。その翌月には地村保志さんの父保さん(93)、2019年には救う会福井の池田欣一前会長(96)が死去した。

 関係者が相次いで亡くなる中、保志さんは18年から県内の小中学校などで講演を続けている。そして、子どもたちに訴える。「北朝鮮に残る被害者を早く取り戻さないと、拉致は悲しい歴史の話になってしまう」

 中学生だった横田めぐみさんは、拉致されてから来年で45年。母の早紀江さん(85)は「失っていくばかりの人生。切ない」と悲痛な声を上げる。

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 「拉致は国の最重要課題」―。岸田文雄首相は、安倍晋三元首相、菅義偉前首相の路線を引き継いでいる。ただ、救う会福井の森本信二会長(66)は「5人が帰国して20年近くになっても進展がない。政府は何をしていたのか」と憤る。

 選挙になれば「拉致問題の早期解決」という言葉が候補者の口から出るが「選挙活動に利用されているイメージしかない」と話す。そこには、国民の命を守る政治家の姿は見えない。

 多くの関係者は「解決には日朝首脳会談しかない」と口をそろえる。全国組織「救う会」の西岡力会長は「独裁国家はトップの決断が全て」と指摘。「北朝鮮が経済的支援を得たいならめぐみさんと早紀江さんが抱き合う姿を見せ、日本人を納得させる必要がある。母親が亡くなってからめぐみさんが返されても、納得しない。そういう意味でも時間的猶予はない」と訴える。

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 拉致の可能性が否定できない特定失踪者の安否確認にも、進展はない。福井県内の特定失踪者3人のうちの一人、越前市の河合美智愛さん=失踪当時(20)=の母喜代子さん(80)は「あらゆるチャンスを逃さずに解決に取り組む」という安倍元首相の言葉に「すごくうれしくて期待した」と振り返るが「期待するだけ落胆が大きくなる。首相が代わるたびに同じことを言うが、もう当てにできない」と力なく話す。

 9月以降、北朝鮮は弾道ミサイル発射を繰り返している。米国の譲歩を引きだす狙いとの見方もされる中、日本はいかにして拉致交渉のテーブルに北朝鮮を着かせることができるのか。米韓を巻き込んだ外交手腕と覚悟が問われる。