「自分にとって理想の場所」という大野市和泉地区で狩猟の腕を磨く前底智秀さん=福井県大野市下大納

 「人間やっぱり、ないものねだり。自分にとっての『ないもの』がここにはあった」。大野市和泉地区で暮らす前底智秀さん(30)は奄美群島にある鹿児島県喜界町の出身。山と川、雪を求め2018年、大野市に移住した。今年8月まで地域おこし協力隊として鳥獣害対策に当たり、現在は狩猟の腕を磨いている。

 最初の冬は記録的な少雪だった。思い描いた雪の量にはほど遠く、大野の市街地から和泉地区の一軒家に移った。「和泉は理想の場所。住んでいて楽しい」。目の前に川、背後には山。昨冬は雪で1階部分が埋まった。都会にいた時は隣に誰が住んでいるか知らなかった。ここでは通り掛かった人が車を止めて話し掛けてくれたり、地域の行事に誘ってくれたりする。

 狩猟の知識も経験もなかったが、地元のベテラン猟師が快く技術を教えてくれた。経験を積む中で、農業を守るなど猟師の社会的な役割の大きさも分かってきた。当初は水が合わなければ故郷に戻ればいいと思っていたが、今では「大野で狩猟をして生きていきたいと思っている」。「よっぽどのことでもない限り」と付け加え、朗らかに笑った。

 サンゴ礁が隆起してできた喜界島(奄美群島)出身の前底さんは、都会への憧れから高卒後、愛知県の専門学校を経て大手自動車メーカーに就職した。しかし、専門学校時代の友人が全国に散り、映画館やボウリング場に行かなくなると、街に住む必要がないことに気付いた。「価値観やカツカツカツと物事を進めていく都会のやり方が、のんびりした自分とは合わなかった」

 26歳の秋に「機械の仕事」を辞めた。自然、特に山に関わる仕事を探す中で猟師という職業を知った。