保健師らが感染者から行動歴など聞き取って記入する調査票=福井県敦賀市の県二州健康福祉センター

 ベテラン保健師の女性は今年の夏、毎晩同じ夢を見た。新型コロナウイルスの感染者名が延々と続くリスト―。息が詰まる思いで目を覚まし、疲れを振り払って、勤務先の二州健康福祉センター(福井県敦賀市)に向かう日々が続いた。

 県内は流行「第5波」のまっただ中だった。7月20日以降の第5波の感染者は1624人(10月1日時点)に上り、2カ月余りで昨年度1年間の3倍近くに達した。同センターが管轄する二州地域を含む嶺南でも308人が感染した。夢は、そのまま現実だった。

  ■  ■  ■

 午前8時半ごろ、夜間の検査で判明した同センター管内の感染者のリストが届く。そこからが時間との戦い。一人一人に電話をかけ、2週間の行動歴を聞き取る。特定した濃厚接触者や接触者にも急いで連絡し、医療機関で検査を受けるよう伝えていく。

 8月中は、聞き取りで浮かび上がる濃厚接触者らが午前分だけで30人程度に膨れあがった。担当課の職員9人では手が回らず、所内の薬剤師や獣医師を投入した。電話回線も不足し、各課の緊急用携帯電話をかき集めた。夕方には午前の濃厚接触者らから感染者が判明し、“2回転目”の調査が深夜まで続く。

 電話口の向こうから続くせき、荒い呼吸音。不安な気持ちをしっかり聞いてあげたいと思う半面、必要な情報を早く聞いて濃厚接触者を検査しないと次の感染が広がってしまう。常に葛藤があった。

 「そんなこと覚えてない!」「知るか!」。動揺する感染者が声を荒らげることはしょっちゅう。飲食店の店主に感染拡大防止のために店名の公表を勧めると「あんた、店をつぶす気か」と怒鳴られた。

  ■  ■  ■

 9月に入り、第5波が落ち着き始めたころ、コロナから回復して同センターを訪れた男性が「電話でついひどいことを言ってしまった」と頭を下げた。多くの職員が救われた。

 コロナが追い詰めるのは感染者だけではない。家族が次々感染し、子どもや要介護者のお年寄りが1人だけ残されることがあった。子どもは児童相談所で預かることもできるが、要介護者の公的な一時預かりの仕組みはまだない。今のところは関係者間の調整でなんとか対応できているが、こうしたケースが重なったらと思うと心配になる。

⇒【記者の取材後記】保健師が語った葛藤(D刊)

 精神疾患や難病に苦しむ人たちのケアも保健師の仕事。コロナ禍による全国的な自死の増加も気がかりだ。地域で支え合う仕組みを築くことが本来の役割なのに、コロナでそうした仕事に向き合う時間を奪われている。数年先の地域にどんな“後遺症”が表れるのか、不安は募るばかりだ。