おいしい匂いの記憶

 福井大学医学部(福井県)の村田航志助教らの共同研究チームが、食べ物の匂いと、それがおいしいという情報が記憶される脳のメカニズムを解明した。脳の快楽物質であるドーパミンが、記憶中枢にある特定の細胞に放出され、匂いと記憶を結びつけていた。嗅覚の低下が初期症状として知られるアルツハイマー病の原因解明や治療法の開発につながることが期待され、論文が9月、英科学誌ネイチャーの電子版に掲載された。

 村田助教は嗅覚に関する脳科学が専門。米カリフォルニア大アーバイン校の五十嵐啓・助教授らと、5年ほど前から共同研究に取り組んできた。

 マウスを使った実験で、Aの匂いを嗅がせた後には砂糖水、Bの匂いの後には苦い水を与えた。数十回繰り返すと、マウスはAの匂いを嗅ぐとなめようと舌を出し、Bの匂いでは舌を出さなくなった。

 研究チームは、匂いの学習には、脳内で記憶をつかさどる海馬の隣にある嗅内皮質という領域が関係していると予想。学習中のマウスの嗅内皮質の活動を、電極や光ファイバーを用いて記録し、ドーパミンの放出量や受容体の有無についても調べた。

 その結果、砂糖水をもらえる匂いを嗅いだときだけ、嗅内皮質に放出されるドーパミンの量が増加し、嗅内皮質にある扇状細胞が活発に活動した。扇状細胞にはドーパミンの受容体があることも判明。ドーパミンが扇状細胞に作用することで、おいしい匂いが記憶されていると結論づけた。

 嗅内皮質は、場所や空間を把握する能力と関わり、アルツハイマー病の初期に障害を受けることで知られている。一方で、その理由は解明されておらず、嗅覚との関連性も明らかになっていない。

 今回の研究成果から「扇状細胞の活動を高めることで、記憶疾患の治療にもつながる可能性がある」と村田助教。嗅内皮質の役割を明らかにし、より効果的な治療法の開発に役立てるため、今後はドーパミン以外の神経物質の作用などについても研究を続ける。