玄関でお菓子を食べる母親(奥)を世話する山本邦雄さん=福井県福井市内

 福井県福井市の山本邦雄さん(80)宅の玄関先には古びた木製の柵がある。認知症の母よしをさん(100)が夜中に家から出ないように自分で作った。介護を始めて今年で10年たつ。

 母の認知症に気づいたのは、雪がひどく降った日の夜だった。物音がして外を見ると、地面に足跡がついていた。新聞配達にしては早すぎた。

 不思議に思い1階に降りると、寝ていたはずの母の姿はなく、玄関が開いていた。急いで探しに出ると、近くの神社の境内で雪をかぶって座り込んでいた。その後も居場所が分からなくなることが続いた。

 玄関に柵を置き、引き戸も棒で簡単に開かないようにした。外に出られなくなると、家の中を動き回るようになった。床一面にコメが散らばっていたり、滑ってけがをしたり、玄関が排泄物で汚れていたり。朝食を作ろうと炊飯器を開けると、ごみが詰まっていたときもあった。

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 中学卒業後、調理師として包丁一本で生きてきた。母は息子の手料理しか食べない。周囲からは「だから長生きするんや」と言われる。食事の支度が苦にならないから、1人でも面倒をみることができる。会社勤めだったら難しかった。

 母は要介護3の認定を受け、デイサービスに週6回通っている。その時間を利用し、市内の観光物産店の厨房に立ってきた。しかし、新型コロナウイルスの影響で店の経営が苦しくなり、昨年9月に解雇を告げられた。体が動くうちは仕事を続けるつもりだったが、介護で短時間勤務にせざるを得ない。年齢もあってなかなか雇ってもらえず、職探しを諦めた。

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 よしをさんを担当する訪問看護師(46)は「よく面倒をみていると思うが、できることは徐々に減っていく。追い込まれないようにフォローしていきたい」と話す。

 山本さん自身、気持ちは元気なつもりでも体の衰えを感じる。長年の立ち仕事に加え、介護もあり、2年前に両膝を痛めた。2度の手術で回復したが不安は残る。妻は母が認知症になる前に亡くなった。医者には「あんたも気をつけなあかんぞ」と言われる。県内に子どもがいるが、それぞれ仕事や家庭がある。ときどき様子を見に来てくれるし、経済的に援助してもらっているから、介護を手伝ってくれとまでは言えない。

 介護に関連した殺人事件が起こるたび、胸を突かれる。世話をしているときに蹴られたり、たたかれたりすると頭に血が上ることもある。この苦しみは体験した人しか分からない。定期的に介護当事者の集まりに参加し、悩みを話してストレスを解消する。

 子育てには終わりがあるが、介護はいつ終わるのか予測できない。子どもの時は自分が世話してもらった。恩返しのつもりで、体が動く限り最後まで自分で面倒を見る覚悟だ。

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 衆院選が10月19日に公示される。新型コロナウイルス下の福井県内の現場をリポートし、「政治への叫び」を紹介する。

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