【越山若水】1945年のニューヨーク、生命保険会社で働く男があることに気付いた。顧客が支払う保険料と体重には深い相関関係がある。では、契約時の体重基準を変えたらどうだろう▼これまで「太り過ぎ」とされた人たちを健康に支障を来す「肥満」に分類すれば、不安を感じて契約数は大幅に増加するはず。また何万人もの「普通」だった人たちも「太り過ぎ」と言われれば、高額な保険料を抵抗なく払うだろう。まさにグッド・アイデアである▼男が適用したのが身長と体重から算出する「体格指数(BMI)」。数値で示すBMIは一見科学的だが、実は筋肉密度と脂肪を区別できず、世界最速のウサイン・ボルトさえ「肥満」に入る。かくして米国人の半数が「太り過ぎ」か「肥満」のレッテルを貼られた▼同様のことが2001年、米国立衛生研究所(NIH)による高コレステロールの基準変更でも起きた。健康状態が「危険」と警告された米国人は、一夜にして1300万人から3600万人に急増したという(J・ペレッティ著「世界を変えた14の密約」文春文庫)▼スーパーには低脂肪、低カロリー、糖質オフ食品、ドラッグストアにはサプリメント、ビタミン剤、ダイエット用品があふれ、健康・医療ビジネスは花盛りである。確かに「不健康レッテル」は回避したいと思うが、誘惑の甘言蜜語は鵜呑(うの)みにできない。