昨年から、夏休みになると1か月間だけ東尋坊に滞在し「俺は薩摩隼人や…」と豪語して自殺防止活動のお手伝いをしてくれる人が現れました。この方は、海抜20メートルほどある岩場の岸壁に立ち、頭から日本海に向かって一日10回ほど観光客の要望にも応じて飛び込むパフォーマンスをしたり、自殺を考えて岩場に立つている人を見付けたら声を掛けて自殺を食い止めてくれるもの凄い「助っ人」小父さんです。この自殺企図者を発見・保護するための一翼を担ってくれたのが鹿児島県出身の「飛び込み小父(おじ)さん」こと岡崎賢二さん72歳です。

 今年の8月は11人もの自殺企図者と遭遇し再起に向けた支援をしてきました。私たちのNPO法人は18年目を迎えましたが、自殺企図者を発見・保護するのは一か月で3~4人。11人というのは異例の多さで、コロナ禍で多くの人が心に傷を負ったことのあらわれでないかと、いたたまれない気持ちになりました。ただそんな中でも、岡崎さんは5人もの自殺企図者を発見し、私に引き継いでくれました。一人でも自殺を思いとどまらせるために、その架け橋になってくれたことはとてもありがたい気持ちでした。

 不思議に思ったのは、なぜ死を決意した人が東尋坊でたまたま出会った岡崎さんに心を許し、身をまかせようと思ったかです。岡崎さんの声のかけ方にヒントがあるのではないかと思い、尋ねたところ、次のような言葉を投げかけたそうです。

・何処から来られましたか…?
・一人ですか?  仲間はおられますか?
・ここは、どんな所か知っている…?
・今日は、何かを思い詰めて (困って、悩んで、苦しんで) 来たんでしょ…?
・もう大丈夫ですょ…!  聞いてあげるから何でも吐き出しなさい…!
・東尋坊には悩みごとを解決する人 (当NPO法人のこと) がおり、紹介してあげるからついて来なさい…!

 相手の閉ざされた心を無理に押し開けず、寄り添いながらゆっくり解きほぐしていくような手順だと思いました。また、自殺企図者にとって赤の他人だからこそ話せる何かがあったのかもしれません。

発見・保護した自殺企図者の内訳

8月中に遭遇した11人が自殺を思い立った理由はさまざまです。

①関東在住の30代男性:職場の仲間内からのパワハラを受けそれを苦に自殺を企図

②福井県内の若年層女性:かねてからのうつ病を苦に自殺を企図

③中京の20代女性:長年の同棲生活にピリオドを付けるために自殺を企図

④関東在住の40代男性:500万円の借金を苦に自殺を企図

⑤関西在住の20代女性:転職を希望しているのに両親に反対され転職出来ないため自殺を企図

⑥甲信越在住の30代男性:サザエさんのマスオさん的生活に疲れて自殺を企図

⑦九州在住の20代男性:上司との折り合いが悪くなり自殺を企図

⑧九州在住の20代男性:就活したが働き口が見付からないため自殺を企図

⑨四国在住の20代男性が、LGBTを苦にして自殺を企図

⑩関西在住の10代女性:職場で失敗が続いたため自己嫌悪に陥り自殺を企図

⑪関西在住の20代女性:母親の無理解を苦にして自殺を企図

自殺企図者の意識の変化

 私たちの活動も18年目を迎えましたが、最近、これまでに遭遇してきた自殺企図者の意識の変化を感じています。コロナ禍が長引くにつれ、閉塞感や先行きの不透明感によって心の強さが失われているように感じます。正常な状態であれば乗り越えられるだろう問題であっても、コロナ禍によって心が疲弊してしまっているため、自らの死によってすべてを終わらせようとしてしまう傾向が顕著になったような気がします。

 私は自殺企図者に立ち直ってもらう活動を開始するに当たり、カウンセリングの勉強をし「受容し」「傾聴し」「共感する」ことを教わってきましたが、目前にいる自殺企図者と対峙する場合、現在抱えている悩み事を取り除くために突っ込んでその悩み事を聞き取る必要があります。そして、その悩み事を取り除くために問題点と解決方法を見極めないといけないと思っています。自殺まで考えた人は「自力で脱出」することができない状態になっているのです。「死んで解決する」という考えに捉われないよう、その人の特性に合わせた「孤立から解放」に向けた各種のお手伝いが必要ではないかと考えています。

 ⇒コラム「『死にたい』に寄り添って 東尋坊の現場から」の記事一覧を読む

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 福井県の東尋坊で自殺を図ろうとする人たちを少しでも救おうと活動するNPO法人「心に響く文集・編集局」(茂幸雄代表)によるコラムです。

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