救助時の様子(2021年6月・福井県坂井市沖)

「備えあれば憂いなし」とはよく言ったもの。
人生、いつ何があるか分かりませんが、ほんの些細な「備え」が、大きな「命」を救うことにもなるんです。

ピーーー・・・ピーーー・・・ピーーー・・・

6月下旬の夜8時ころ、漁を終えて帰港途中の漁師さんが海の上で聞きなれない笛の音を耳にしました。
なんだろうと、暗闇の中、音のする方に目を凝らすと、そこにはなんと転覆して浮かんでいるボートとその海面から浮かんでいる船底にしがみ付いている男性の姿が!
思わぬ緊急事態に遭遇した漁師さんでしたが、あわてず冷静に海上保安庁「118番」に救助を要請していただきました。

しかし、現場は暗闇の海の上。漁師さんは転覆ボートと男性の姿を見失ってしまいました。
海の上にはもちろん街灯などはありませんし、漁船には自分の位置を示す目印としての灯火はあるものの、車のヘッドライトのような周囲を照らすライトの装備はありません。
そんな漆黒の海の上に再び取り残されてしまった男性・・・

118番通報を受けた福井海上保安署から、直ちに巡視艇あさぎりと救助艇が通報のあった現場近くに向けて急行!事故者を見失ってしまったという情報も入り、緊張感が高まります。
しばらくして、現場に到着した救助艇。事故者の捜索を行い始めたところ、暗闇の海の向こうから

ピーーー・・・ピーーー・・・ピーーー・・・

という音を海上保安官が聞き付けました。
救助艇は、海の上で聞きなれないその音のする方へ向かうと、だんだんと海面に浮かぶ赤い船底が見えてきて、そこに掴まっている男性の姿を発見!
ボートの転覆から約2時間後、男性はケガもなく無事に救助されたのでした。

その後、男性から事故の経緯を聴いたところ、ボートは原因不明の浸水でバランスを崩して転覆。そのときに、船に乗せていた携帯電話や信号灯は海に落ちてしまい、助けを求める術が無くなってしまったのだそうです。
心細い真っ暗な海の中で感じた船の気配。しかし、大声で助けを求めても、風や波、船のエンジン音などで必死の声は掻き消されてしまい、体力だけが消耗していきます。
そんな中、男性が最後の頼みの綱としたのが、そのとき男性がきちんと着用していたライフジャケットに付属していた「笛」だったんです。
この笛の音が、一度は漁師さんに、一度は海上保安官に届き、男性の命を繋いだのでした。

プレジャーボートには、ライフジャケットの着用や笛の搭載は義務とされていて、その義務をしっかりと果していた結果、自分の命を救う結果となったのでした。
このような「備え」は、プレジャーボートだけでなく、カヤックや手漕ぎボート、磯釣りなど、義務ではないにしても備えておいて憂いなし!
緊急時の対策はいくつあっても多すぎるということはありません。

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防水ケータイがあるからといって油断することなかれ。
笛のようなアナログな方法でも、九死に一生を得ることがあるんです。
と、“警笛”を鳴らします!(敦賀海上保安部・うみまる)