河村光庸さん

 突然の退陣表明の衝撃がさめやらぬ中、菅義偉首相の素顔に迫ったドキュメンタリー映画「パンケーキを毒見する」が全国で公開されている。作品をプロデュースしたのは、数々の話題作を生み出している映画会社「スターサンズ」社長で福井県福井市出身の河村光庸さん。「菅政権で何が行われているのか分かりやすく伝えたかった。有権者の判断の材料として、衆院選の前に提示したかった」と製作に至った思いを語る。

 ―映画では、2020年9月に就任した菅首相について、首相を知る政治家やジャーナリストらに語ってもらうとともに、日本学術会議の会員任命拒否問題を巡る国会答弁や、人事の手法などについて検証している。製作の経緯は。

 「私たちはまず『新聞記者』という映画で、安倍政権の姿をフィクションで描いた。官僚支配、マスコミ支配といった政権の負の部分をコントロールしていたのが、官房長官だった菅さんだと思う。もし安倍(晋三)さんの後を引き継いだ菅政権が長く続くのなら非常に危ういと思った」

 ―今作品が公開されたのは東京五輪さなかの7月30日。衆院選の前に、という意識はあったのか。

 「昨年10月には、映画館に『(この時期に)空けておいてくれ』と話をしていた。近年、議員や政治が劣化しているという思いもあり、自民党総裁選や衆院選前にどうしても公開したかった。私の映画は(今の日本や政治に対する)アンチテーゼを示している。民主主義の原点である選挙の投票率をアップさせたかった」

 ―菅首相は9月3日に突如、退陣の意向を表明した。総裁再選に向け、二階俊博幹事長の交代を含む党役員人事を実施すると伝えられていた。一連の動きをどうみたか。

 「墓穴を掘ったと思った。小泉進次郎さんらを党役員に就けようとしたけれどうまくいかなかった。映画でも菅首相のことを『バクチ打ち』『裏切りの人』などと表現しているが、今回は策におぼれたなと」

 ―上映に対する反響は。

 「夏休み映画が終わり、これから上映館が増えていく。これまでの反応はよく客入りはいい。公開前に大学生100人弱に観賞してもらってアンケートをしたら、ほとんどの人が『選挙に絶対に行く』と答えた。すごくうれしかった」

 ―福井県との関わりは。11日からは福井市の福井メトロ劇場で公開される。

 「私は福井市順化の出身で3歳の時に東京に引っ越した。東京の家の中では福井弁が飛び交っていたし、今も福井県出身の方にはシンパシーを感じる。福井での公開はうれしく、たくさんの人に見てほしい」

 ―映画人として今後の抱負を。

 「今の時代に、文化芸術の代表選手である映画の果たす役割は大きいと思っている。多様性、創造性を育み、何より自由である。これからも時代を切り取る作品を出していきたい」

【かわむら・みつのぶ】1949年福井県福井市生まれ。出版事業や映画出資の経験を経て2008年に映画会社スターサンズを設立。海外作品の配給を行いながら、「かぞくのくに」(11年)、「あゝ、荒野」(16年)、「愛しのアイリーン」(18年)、「新聞記者」(19年)、「宮本から君へ」(同)、「MOTHER マザー」(20年)など話題作を立て続けに製作、公開してきた。公開予定作品として「空白」(9月23日)、「人と仕事」(10月8日)がある。