【論説】3年前に92歳で亡くなった越前市出身の絵本作家、加古里子(かこさとし)さんの創作の軌跡をたどる大規模展「かこさとしの世界展」(~9月20日)が福井市の県ふるさと文学館で開かれている。60年の創作活動で生み出した作品は600冊以上。共生をテーマとした「からすのパンやさん」シリーズや、自分の体を健やかに保つ大切さを伝える科学絵本などコロナ禍の今、学ぶことは多い。

 加古さんの創作の原点は、化学メーカーに勤務する傍ら1950年代に参加した川崎市の工業地帯でのセツルメント(地域生活支援)活動にある。この時代に制作した紙芝居の蓄積が絵本の土台となり、工学博士としての科学的な知識、子どもたちから採集した伝承遊びのエッセンスが合わさった作品は、時代を超えて子どもたちを魅了する。

 代表作の一つ「からすのパンやさん」は、嫌われがちな身近な存在のカラスが主役。害鳥か益鳥かといった人間本位で判断せず、同じ生き物として対等に向き合い、多様な存在を認め合う加古さんの思いが投影されている。コロナ禍で浮き彫りになった孤立や孤独、感染者に対する差別が問題となる現在、「共生」「共助」とは何かを考えることは大きな意味を持つ。

 人の体や健康をテーマにした作品が発するメッセージも現在に重く響く。「からだの本」「きゅうきゅうびょういんききいっぱつ」「びょうきじまん やまいくらべ」などは普遍的な医学知識を伝える。体の仕組みを分かりやすく紹介し、命の尊さまでも語る。何をしたらいいか、何をしてはいけないかを子どもに問い掛け、自分の体は自分で守る大切さを説いている。

 加古さんは敗戦後、軍国少年だった自身を反省。未来を担う子どもには自分で考え、判断する力を伸ばしてほしいと願い、それが創作の源泉となった。作品には、探求心を呼び起こす仕掛けがあり、学びや気づきの楽しさがある。人間の存在を宇宙の誕生から壮大かつ緻密に説いた科学絵本「人間」は大人までが対象。多角的な知識が詰まっており、興味を持った子どもたちがどんどん知識を吸収できるようになっている。

 コロナ禍によって国民一人一人が新しい生活様式を求められる今、自ら考え、行動することは子どもにとっても一層重要になっている。「世界に対して目を見開いて、それをきちんと理解して面白がって」(「未来のだるまちゃんへ」文藝春秋)と語った加古さん。作品に込められたメッセージを改めてかみしめたい。