かこさんの戦争体験を描いた絵本「秋」の原画となった紙芝居。絵のタッチについて長女の鈴木さんは「18歳の感性のまま」と感じたという(加古総合研究所提供)

 福井県越前市出身の絵本作家かこさとしさん(加古里子、1926~2018年)が60年以上前に自身の戦争体験を描いた紙芝居が見つかり、絵本「秋」としてこのほど講談社から刊行された。戦後、子どもの未来に希望を託して600作品以上を残したかこさんだが、戦争を題材にした絵本は初めて。

 空高くうろこ雲が浮かび、野菊が揺れる。赤トンボは羽音をたてて群れている。美しい風景から始まる物語。1944年の秋、18歳のかこさんが体験した出来事が続く。

 戦況悪化で食べ物にも事欠く日々。高校2年の「私」は兵器工場で働いていた。虫垂炎になり手術してもらった医師が召集され戦地へ。くっきり晴れた空から戦闘機が墜落し、飛び降りた飛行士の落下傘が開かずに姿を消した惨劇を見たことがつづられる。そして医師の戦死の知らせが届く。

 「青い空や澄んだ秋晴れは、戦争のためにあるんじゃないんだ」「空襲や戦争のために、青く澄んでいるなら、こんな秋なんかないほうがいいんだ」。やりきれない憤りが強い口調で語られる。

 「秋」は昨年春、長女の鈴木万里さん(64)=神奈川県藤沢市=が自宅を整理していて見つけた。かこさんが絵本作家としてデビューする前の53~57年に制作された。絵本として出版しようと82年に改訂、出版の際の注意点も詳しく書かれていた。「自分の力不足で出版することができず申し訳ない」との編集者からの手紙も一緒にあった。

 鈴木さんは「絵本にしようと30年かけて練り上げて、父が出版を強く願っていたと感じた。82年当時は難しかったが、今ならこの本を読んでもらえる」と、出版社に相談した。

 かこさんは中学生で航空士官を志したが、視力が悪く体格検査を受けられず、自身を「死に残り」と語った。戦争に負けた瞬間に「戦争に反対だった」と手のひらを返した大人の姿に絶望し、軍人を目指した自身も同罪だと後悔した。子どもが自分で考えることができるよう手伝うことを生きる希望とし、絵本創作に思いを込めてきた。

 鈴木さんは「晩年の父は戦争について描きたいが難しいと繰り返していた。『秋』が描いたのは歴史のほんのひとかけらかもしれないが、戦争の悲惨さや残酷さを十分伝えられると思う。戦争を考えるきっかけとなれば」と話している。

 AB判、36ページ。1760円。