福井県坂井市の東尋坊

 ある日の薄暮時、東尋坊(福井県坂井市)でパトロ-ルをしていたところ、20代の女性と60代の女性がベンチに座っていたため声を掛けました。話を聞くと、60歳の女性は「私が自殺するため岩場に行きましたが、そこにこの若い女性が目の前で自殺をしようとしていたんです。この人はまだまだ若く先がある人です。私より先に死ぬなんて絶対に許せないと思って説得していたところです…」とのこと。2人に相談所まで来てもらい、さらに話を聞きました。

 20代の女性は大学を卒業しアパートで一人暮らしをして福祉施設で働いていました。が、仕事に生き甲斐が感じられず、無気力の状態が続いていました。退職することを両親に訴えるも許してくれず、この世の中にとって邪魔な人間だと考え、消えたくなって自殺しに東尋坊で訪れたのでした。

 一方、60代の女性は10年間スーパーで働いていましたが、職場のお局さんから万引きしたと根も葉もない陰口をされたり、自宅でのお風呂に入っている時の姿(盗撮)や自宅での会話がネットで流されている(被害妄想)との妄想にとらわれ、生きづらくなり死を決意しました。

 60代の女性が死に場所を求めて、午後3時ごろに東尋坊に着き、飛び込む場所を見付けました。観光客がいなくなる日没になったらその場所で飛び込もうと思って行きました。通称「ろうそく岩」が見える海抜約15メートルある岸壁の最先端。しかし、いざそこへ向かうと、すでに20代の女性が…。崖に座り込み、もうろうとして海を眺めていました。

 60代女性は直感的に自殺する寸前であると思ったため「あなたはまだ若いんだから死んだらダメです。私も自殺を考えてきました。ちょっとお話ししましょう…」と説得して、近くにあるベンチまで誘導し、言葉を交わしました。

 私が2人を見つけたのはそのときでした。薄暗くなっていた時間帯に岩場付近のベンチに2人が並んで座っており、その姿を見た時は親子の旅行者かな…と思いましたが、60代の女性は何か困っている様子。20代の女性は下を向いているだけで無言の状態でした。そこで、私は2人に「何しているんですか…?」と声を掛けたところ、60代の女性は「こんな若い子が自殺したいと言うため引き止めていたところでした」と訴え、誰かの手助けを待っている状態でした。2人とも悩みを抱え、死にたいと願うほど思い詰めた者同士でした。しかし、それぞれ悩んでいることは違うので、お互いが相手をいたわりつつも、話は平行線だったようです。

 2人に相談所まで来てもらい、20代の女性については家族に連絡。退職する事に理解を示したため、迎えに来てもらい引き渡しました。60歳代の女性も家族が迎えに来たため、精神科医の診察を受けることを約束して引き渡しました。

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 もし、暗くなり、2人だけの時間が続いていれば、最悪の場合、2人一緒に死を選んでいたかもしれません。私たちの相談所を後にするとき、2人は手と手を取り合って相手を激励していた、あの姿を見た時、「自殺はダメ」と言うことを心に刻み込まれたのではないかと思います。

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 福井県の東尋坊で自殺を図ろうとする人たちを少しでも救おうと活動するNPO法人「心に響く文集・編集局」(茂幸雄代表)によるコラムです。

 相談窓口の電話・FAX 0776-81-7835