劣悪繁殖場にいた繁殖犬

先月6月1日に、劣悪な環境で犬や猫を取り扱う事業者を取り締まるための「動物の管理の方法等の基準を定める省令(基準省令)」が施行されました。対象は、ペットショップや繁殖屋などの販売業、ペットホテルなどの保管業、ペットレンタルなどの貸出業、ドッグトレーナーなどの訓練業、猫カフェや仔犬カフェなどの展示業、ペットオークション業、老犬老猫ホームの譲受飼養業など犬猫を取り扱う事業者全般となります。またそういった第1種動物取扱業者(営利)に限らず、譲渡団体等の第2種動物取扱業者(非営利)にも準用されます。

そもそも、なぜこの省令が出来たのかというと、これまでは「第1種、第2種動物取扱業者が遵守すべき動物の管理の方法等の細目」というものしかありませんでした。そこには例えば「ケージ等は、個々の動物が自然な姿勢で立ち上がる」とか「日常的な動作を容易に行うための十分な広さ及び空間を有するもの」といった漠然とした書き方で、具体的な数値や状態についての定めがなかったため、行政が通報を受け「ケージが狭すぎるから大きくしなさい」と指導しても「これまでずっとこの状態で問題なかった」と言われると、その状態をアウト!とすることが出来なかったのです。

一方、私たち動物愛護団体のところには、さまざまな通報が寄せられます。どこそこのペットショップのバッグヤードで、ハムスターなどの小動物を入れる小さな飼育ケースに、入荷してきた仔犬が入れっ放しにされ、次第に水下痢を起こしぐったりして「どこか」に移送されたとか、売れ残りの犬をまともに立つことすらできない小さな段ボールに1日中閉じ込めているなどといった情報、そしてパピーミル(仔犬繁殖工場)で、眼球が膿で覆われ飛び出ている犬や、何の犬種か分からないくらい毛がボサボサに伸びた状態の繁殖犬の写真が送られてきます。

そういう通報を受け、行政から事業者に対し指導改善をするよう求めても、速やかな改善が図られなかったというのが常でした。ですので、今回この環境省令の「数値規制」が出来たことは大きな前進だったと思います。

どのようなことが定められたかと言うと、従業員1人あたり世話できる頭数や、犬や猫の体長・体高によってケージはこの大きさにしなさいとか、犬や猫を繁殖させる場合の上限年齢や生涯における繁殖回数(犬のみ)などの具体的な数。またそれだけでなく体が毛玉や糞尿で覆われていないか、年1回以上の獣医師による健康診断とその犬猫が繁殖に適しているかの診断など多数の基準が設けられました。

もちろん、私たちが望む100%がこの規制に盛り込まれた訳ではなく課題も残しました。それは生涯における猫の出産回数が入らなかったこと、1人当たりの員数が多いこと(Evaは販売・繁殖とも1人当たり10頭を要望)、繁殖引退犬猫の頭数が定められなかったことなどがあります。

またケージの大きさや従業員数、繁殖回数の規制においては、完全施行まで長すぎる経過措置が設けられました。省令自体は今年の6月に施行されましたが、ケージなどの設備や繁殖に関しては来年6月まで、従業員数については3年後の6月まで猶予があるのでそれまでに準備してくださいということです(いずれも既存事業者)
法改正自体、昨年の令和2年に施行され、こうした規制が定められることは分かっていたはずなのに、それなのに更に今から3年後とは長すぎます。犬や猫の平均寿命は14歳から15歳、その間の3年は、犬や猫にとって非常に長い期間です。少ない従業員数で丁寧に世話がされない状態で更に3年も据え置きされることは非常に納得がいきません。

では規制の対象となる事業者はどうでしょうか。
先日フジテレビの報道番組の取材を受けました。取材依頼は「今回の数値規制についてどう感じているか動物愛護団体として意見を聞きたい」といった内容でした。事前に質問内容をいただいていたので、こちら側の見解を話したのですが、私が一番驚いたのは、取材を受けた際、記者から「数値規制が施行されることにより10万頭以上もの犬猫が行き場をなくす問題について、動物愛護団体は何もしないのですか?」といった質問でした。

そうならないために、省令で長い経過措置が設けられた訳ですから、その間に業者が責任を持ってやらなければならないのです。これはもうすでに決まっていることで、この先行き場をなくす犬猫が出ないよう、今から先を見越し、手元にいる犬猫の年齢を考慮し、繁殖に適さない年齢に近づく犬猫は、繁殖をやめ不妊・去勢手術を行い、残りの余生をあたたかい家庭で過ごせるよう里親を探す必要があるのです。

そもそも「行き場をなくす」と簡単に言いますがどういうことなのでしょうか?数年前に全国で多発した動物の大量遺棄事件のように「山や河川敷に捨てるぞ、それでもいいのか。それでも愛護団体は何もしないのか?」ということなのでしょうか。犬や猫を捨てることは遺棄罪ですから動物愛護法違反です。動物は服やバッグと違い、在庫や売れ残りを捨てたりはできないのですから、繁殖をさせ儲けに使った物言わぬ命に対し、企業の社会的責任として経過措置の期間中に今から計画的に取り組むべきなのです。

これまでも全国各地で事業者が犬猫を増やし過ぎて経営困難になったり、病気による入院で世話が立ち行かなくなることがありました。そんな事業者の施設にいる犬猫を、動物愛護団体は、無償で引き取り世話をし治療をさせ、里親探しに奔走してきました。時には一つの繁殖場施設で何十頭、酷い時は三桁の時もあります。ですが動物の命に罪はありません。動物愛護団体や活動家の方は、利益目的で増やされた犬猫の命を救うべく、自分たちの仕事の合間に必死の思いで時間を割き身銭を切って活動しているのです。それでもまだ自助努力もせず、動物愛護団体に尻ぬぐいをさせるつもりなのでしょうか。もちろん今後も事業者の多頭飼育崩壊は避けられないと思います。どんな時も見捨てることをしない愛護団体はこれまで通り目の前の命を助けるでしょう。ですがそれをあてにして、今まで通り変わらなければ、動物が置かれている環境も今と何一つ変わらないのです。

その後、取材内容が放映されたのですが、嫌な予感は的中しました。見出しは「ペットの幸せな暮らしを目指して…動物愛護法の規制強化 一方で行き場失う犬や猫も」といったものです。これまでどれだけ命を命と思わない劣悪事業者のもとで犬猫が酷い管理をされ、それが適正に取り締まれなかったかその部分には詳しく触れず、動物を救うはずの規制のせいで、「経営が成り立たない」「頭数を減らすしかない」「3年後には10万頭を超える犬の行き場がなくなってしまう」といった事業者の方々が困惑している内容でまとめられていました。環境省が定めた一人当たりの頭数は決して少ない訳ではありません。それでも定められた頭数を飼育したければ3年の間に従業員数を増やすしかないのです。何のために、この省令が出来たのか、そもそもの意味を考え事業者の方々には守っていただきたいです。

また報道の基本は、両方の見解を伝えることですが、その詳しい背景や事実をしっかり伝えなければ、情報を受け取った側は、問題に対しての印象や判断を間違ってしまいます。動物が置かれている環境を少しでも良くするために、この省令が施行されるまで動物愛護管理法改正も含め、4年以上もの期間多くの方々が関わりそれぞれの問題に向き合いました。そういった目的や経緯について事前によく調べ報道していただきたいです。

今回のEva通信は、当協会Eva代表理事の杉本彩と共に、日頃活動しているEva事務局長の松井が、数値規制と報道の在り方についてお伝えしました。

※Eva公式ホームページやYoutubeのEvaチャンネルでも、さまざまな動物の話題を紹介しています。

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。