「砂漠の天使」といわれるスナネコ

アジアの熱帯雨林などに生息するアミメニシキヘビ

以前より問題になっている野生動物のペット化。ペットとして野生動物を飼う人の動機はさまざまでしょう。たとえば、マニアックな動物コレクターは、特殊な外車をコレクションする人の心理に似ているように感じます。また、高額で希少な野生動物を飼うことに、優越感を持っている人もいるでしょう。他にも、テレビのペットブームに乗って飼う人。インスタ映えが目的と思われる人もいます。

モノを収集するならどんな動機でもかまいません。けれど、動物は飼われ方によって苦痛やストレスを感じる命ある生きものです。こういった人の心理は、どれも人間のエゴでしかありません。

以前から、野生動物をペットとして飼うことには、大変疑問を持っていました。なかでも特定動物は、人の生命、身体又は財産に害を加えるおそれがある動物として政令で定められる動物種で、とても危険です。特定動物とは、人に危害を加えるおそれのある危険な動物とその交雑種のこと。トラ、クマ、ワニ、マムシなど、哺乳類、鳥類、爬虫類の約650種が対象です。

特定動物は、動物愛護管理法が改正され、令和2年6月1日から愛玩目的等で飼養することが禁止になり、それについては本当によかったと思います。ただ、法改正前から飼育していた場合はその対象ではありません。法改正前から飼育されていた特定動物は、そのまま飼育が許可されています。

けれど、一般飼い主の不適正飼養は珍しくなく、行政が指導に行っても改善させるのが一苦労な場合もあります。改善しない場合は飼養許可を取り消すことができますが、その後の動物の行き場を確保するのは簡単なことではありません。大きな動物は広い飼育スペースが必要ですし、危険な特定動物は安全に保管できる飼育環境が必要です。また、エキゾチックアニマル(犬猫以外の動物)などは日本の気候で生きるには難しいため、本来生息している地域の気温や湿度などを再現しなくてはなりません。犬猫のように、動物愛護センターに収容したり、一般のボランティアさんに預けたりできないので、法改正後もまだまだ多くの課題が残っています。

最近では、一般飼い主のアパートからアミメニシキヘビが逃げ出したことが騒動となり、連日のようにテレビで放送されました。アミメニシキヘビはアジアの熱帯雨林などに生息する特定動物で、過去には所有者の死亡事故も起こっている危険な動物です。そんな動物が住宅地でペットとして飼われていたのです。近所に危険が及ぶことは充分に考えられます。

野生動物は人慣れしないので、飼いきれず遺棄したり、逃げられてしまったり、そんなことが後を絶たないと聞きます。他にも危惧するのは、たとえば災害が起こった時、犬や猫などのペットも壊れた窓や扉から脱走してしまうことがありますが、危険な特定動物や野生動物が脱走してしまったら?犬猫と違って避難所にも同行はできないでしょう。一般家庭で野生動物のペット防災計画を立てることは困難です。

2014年にも、カミツキガメを無許可飼育していた芸人さんが、自宅マンション9階のベランダから落下させてしまいました。ずさんな飼育管理のせいで落下してしまったカメは本当に気の毒ですし、路上にいた人は危険なカミツキガメの被害に合うかもしれませんでした。

世界では、エキゾチックアニマルを飼うのはやめようという流れになっているようですが、動物福祉に対する意識の低い日本では、多くの野生動物が今も販売目的で輸入されています。この背景にあるのがペットブームです。ペットブームは、犬猫だけでなく、野生動物にまで及んでいます。

かつて、アライグマがペットとして人気になったことがあります。1977年からテレビ放映されたアニメ「あらいぐまラスカル」の影響でした。アニメの中の可愛いアライグマを想像し、ペットとして飼う人が増えたのです。しかし、現実は人に懐かない気性の荒い野生動物ですから、結局お手上げとなり逃してしまうなどの問題が後を断ちませんでした。結果、逃したアライグマが繁殖して増え、農作物を荒らす、家の屋根裏や納屋に住みつくなどの被害につながり、害獣として駆除の対象となりました。

当初は、消費者もメディアも「可愛い、可愛い」と無責任にブームを起こし、都合が悪くなれば害獣扱い。人間の都合でペットとして輸入されたアライグマには何の罪もありません。それなのに、悪者扱いされて殺されるのですから、本当にかわいそうな話しです。

こうして日本の生態系の中に外来種が放り込まれることも問題で、その影響は深刻です。長い歴史の中で築かれた生態系、そのしくみの中に外来種が入ると、昔からいる在来種の生き物が食べられたり、住処を奪われてしまったり、病気が蔓延したりして、自然のバランスが崩れてしまいます。そうなると、生きていけない生き物が絶滅に追いこまれてしまうのです。

けれど、現在の日本ではワシントン条約や国内の法律に違反していなければ、輸入された野生動物を飼うことができるわけです。あるテレビのバラエティ番組で、「買える動物園」と名乗るペットショップにタレントが訪ねて、スナネコとふれあう姿を放映しました。スナネコは、「砂漠の天使」と言われる愛くるしい見た目とは違い、人に懐かない気性の荒い肉食の野生動物です。特定動物に指定されていないものの、鋭い爪や牙を持ち、噛まれれば大怪我をするペットに不向きな生きものです。小さくて可愛くても顔つきを見れば、家ネコとは明らかに違うことがわかります。

そんなスナネコを、ペットにしてみたいと思わせるようなテレビ放映がされ、「無責任な放送だ」と批判の声が上がりました。スナネコを飼育している動物園からも、番組の放映を受け、「ペットに不向き」と注意喚起の声がツイートされました。この番組は、司会者の違う前身の時代から、コツメカワウソなど野生動物のペットブームを巻き起こしたり、それ以外にも数々の問題ある放映をしています。絶滅の危機にあるコツメカワウソが、ペットブームによって需要が高まったことで、乱獲や密輸という被害に合い、絶滅の危機に拍車をかけました。あらゆる希少種が密輸されていますが、道中に死んでしまうこともあります。

コツメカワウソブームの真っ最中には、大阪のクラブに数頭が展示されていたこともありました。本来の生息地の環境とはまったく違う、外光も入らない暗い建物の中で、大きな音楽と激しいビームにさらされていたコツメカワウソ。その苦痛を思うと胸が張り裂けそうでした。

このように、規制のゆるい日本では、ブームに伴う悲劇は避けられないのが現状です。かつてのアライグマやコツメカワウソの悲劇をくり返さないよう、安易に野生動物を飼わないでほしいと思います。また、ブームの背景には必ずメディアの影響があります。メディアの在り方について、その責任の重大さを自覚してほしいものです。

野生動物は、本来いるべき自然の中にいるから美しいのです。動物園などで展示される場合も、本来の生息地と同じような環境を再現し、生態に合った食べものを与え、ストレスなく健康に過ごせるよう、厳格な動物福祉への配慮が必要です。その基準を満たしてこそ、野生動物の本当の魅力を伝えることができるし、知ることができるのです。動物を飼うということは、その動物が動物らしく幸せに生きることができるよう、環境を整える責任があります。飼育の難しい野生動物の、ストレスのない環境づくりのできる一般の飼い主が、果たしてどれだけいるのでしょう。

また、野生動物のペット化には、動物福祉の観点だけでなく、人への健康被害という問題もあります。野生動物が持っている病原体が人に感染し、世界的にも深刻な問題になっています。新型コロナウィルスもその一つ。野生動物から人に感染する「動物由来感染症」と考えられています。これまでに確認された動物由来感染症は200種類以上あるそうですが、有名なものでは、エボラ出血熱、SARS、MARS、鳥インフルエンザ、そして狂犬病があります。現在も知られていない新たな感染症が増え続け、多くの命を奪っていると報告されています。命を落とさないまでも、ペットの野生動物による健康被害は、私たちが想像する以上に、身近なところでもあるのだと知らされることがあります。

本来なら、野生動物を愛玩目的で輸入・販売すること自体を禁止すべきだと思います。しかし、ゆるい現行法では、ブームに乗って無責任にペット業者が販売することは避けられません。公衆衛生や自分の健康を守るためにも、消費者が未知の病原体による感染症のリスクを理解することが重要です。
(Eva代表理事 杉本彩)

※Eva公式ホームページやYoutubeのEvaチャンネルでも、さまざまな動物の話題を紹介しています。

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。