有観客で行われた2019年の英国GP。今年はこの時のような盛り上がりを見られるだろう(C)MercedesーAMG

 東京五輪の開幕までおよそ1カ月となった。ご存じの通り、東京五輪開催に関しては賛否が分かれている。新型コロナウイルスの感染状況を踏まえると、それも致し方ないことだろう。

 ワクチンの接種が進んだ国や地域の中には、大勢の観客を入れた試合やレースの開催が可能になっているところもある。代表例は、世界最大規模の観客を呼ぶことで知られる米国伝統の自動車レース、インディアナポリス500マイル(インディ500)。昨年は無観客だったが、5月30日の決勝レースには会場定員の40%に当たる約13万5千人もの観客がサーキットを訪れた。

 これらと比較すると日本でのスポーツなどの収容人数制限はまだ厳しいといえる。いずれにしても、各国はそれぞれの事情に合わせて公衆衛生と経済活動の両立を模索し続けなければならないだろう。

 そんな中、英国政府が今年春に興味深い試みを開始した。「イベント・リサーチ・プログラム(ERP)」だ。英国政府の公式サイトを確認すると「イベント参加による感染リスクを調査し、さまざまな人が安全にイベント参加できる方法を模索するプログラム」とある。

 ERPは独立した権限を持つ3人のメンバーと、公衆衛生など各分野の専門家7人で構成。サンプルとして、音楽祭やサッカーの試合といった多くの人が集めるイベント選び、観客には自身が陰性であることを証明する書類に加え、イベント当日とその5日後にPCR検査を受けることを求める。

 このことを通じて、イベントに参加したことによる感染リスクと感染防止に必要な対策を探っていくという。

 ERPを巡って注目を集めているのが、7月18日に決勝を開く予定のF1英国GPだ。

 発端は英BBC放送のリポーターの次のようなツイートだった。

 「(テニスの)ウィンブルドン選手権がERP対象になった。これにより観客は上限50%まで入れる。そして、センターコートでの男女ともに決勝は満員にしての検証となる」

 このツイートの後、英国の高級紙「タイムズ」も同じ内容の記事を掲載した。すると、12万〜14万人の観客を想定している英国GPもERPの対象にされるのではないかとささやかれ始めた。F1は世界保健機関(WHO)などと連携して、レースに関わる全ての人にPCR検査を義務づけるなどの感染対策を講じてきた。しかし、観客となると話は別。だからこそ、このような話が出てくるのだろう。

 英国では6月21日に予定されていたロックダウン(都市封鎖)の最終解除が7月19日まで約1カ月延長されることが決定した。影響で、休業を強いられているナイトクラブだけでなく、人数を制限して営業しているパブやレストラン、劇場なども大打撃を受ける、と現地メディアは伝えている。

 だからだろう。テニスの四大大会で一番長い歴史を誇るウィンブルドン選手権や英国GPのような大規模イベントをERPの対象とするのはいかがなものか、という意見は多い。経済への影響がさらに拡大することを恐れているのだ。

 一方で、両イベントをERPの対象にするのは価値があるとする声もある。大人数が訪れるからこそ、今後の感染対策で得るものが多いと考えるためだ。

 英国GPが行われるシルバーストーン・サーキットは「現在、政府と話し合いを続けており、前向きに取り組んでいる。2021年のF1のためにシルバーストーンにファンが戻ってくることを確信しているので安心していただきたい」とする声明を出した。

 東京五輪開催に伴う懸念で最も大きいのは「多くの人が移動することによる感染の拡大」だ。政府がイベント主催者と協力して科学的検証を行い、感染防止に有効なルールを作っていくERPのような試みを、日本政府は今すぐにでも導入すべきだろう。それは不安の解消にもつながるに違いない。

 残された時間は確かにそうはない。だが、やらないよりまし。そのことは確実に言える(モータースポーツジャーナリスト・田口浩次)