2019年7月に大阪府内で行われた「動物虐待防止シンポジウムinおおさか」で話す杉本彩さん(左)と吉村洋文知事

「アニマルポリス」というのを聞いたことがありますか?
「動物のお巡りさん?」と警察犬のようなものを想像する方もおられますが、そうではありません。これについて話を進める前に、法律について少し触れておきたいと思います。

動物愛護管理法 第44条。
動物の殺傷は5年以下の懲役又は500万円以下の罰金。
動物の遺棄・虐待は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金。

上記のように改正された動物愛護管理法が昨年6月に施行されました。
それ以前は、殺傷は2年以下の懲役又は200万円以下の罰金。
遺棄・虐待は100万円以下の罰金のみ。
3年以下の懲役である器物損壊罪より軽く、動物の命をみだりに奪うことは物を壊すより罪が軽いのか、と多くの人が違和感と怒りを抱いていました。

この法律が、虐待が凶悪化している時代の変化に合っていないと考え、ある事件をきっかけに動物虐待の厳罰化を求め署名運動が開始されました。その事件とは、2017年に起訴された埼玉県の元税理士による残虐な動物殺傷事件(猫13匹を捕獲し虐待の末に9匹を殺傷)でした。惨殺する過程を撮影し、その動画を誰でも閲覧できるSNSに投稿するという異常な犯行でした。

判決は1年10ヶ月の求刑に執行猶予4年。これだけ残虐な犯行なのに、被害者が動物ということで法定刑が軽く、厳正に裁くことができたとはとても思えません。そんな現行法に納得できず、私たちEvaは動物虐待の厳罰化を訴え、約25万筆の真筆署名を集めました。さらに、議員会館に足繁く通い、動物虐待が社会に与える影響がどれだけ深刻かを説明し、陳情を続けました。そして、59人の国会議員に紹介議員となってもらい、署名を国会に提出。これが大きな後押しとなり、2年に渡る運動の結果、倍以上の罰則の引き上げが実現しました。

これは、私たちEvaの活動の中でも、大変大きな成果だったと思います。
もちろん、動物福祉先進国の諸外国に比べれば、まだまだ甘い罰則と言わざるを得ません。けれど、現時点ではこれが限界だったように思います。法律の専門家や国会議員の多くは、現実的に懲役3年が妥当という意見でしたから。それらを押し返し、一歩も譲りたくない、むしろ譲らないのが正しいという信念の下で活動していました。そんな中での厳罰化の実現は、多くの賛同者の皆さんがこれに全力で協力していただいた結果だと思います。

このような運動を経て、動物虐待が厳罰化されてから1年が経過。この1年、厳罰化がもたらした影響について、私たちは期待して注視を続けています。しかし、相変わらず動物虐待や殺傷は後を絶たず、まだまだ大きな抑止力になっているという実感はありません。

そもそも動物虐待は密室での犯行であることが多く、すべてが密室で完結してしまい、被害者が人間である場合と違い事件化しないこともあるでしょう。ネット上に決定的な証拠を残したり、犯人が自ら動物病院に連れて行かないかぎり、検挙するのが難しい性質の犯罪です。なので、検挙数だけですべてが語れるものでもありません。

ただ、殺傷については、証拠があれば警察の捜査もずいぶん速やかに行われるようになりました。厳罰化され、警察のスタンスも以前とは変わったのかもしれません。
けれど、虐待やネグレクトの環境下から苦しんでいる動物を救い出し、飼い主などの所有者を警察が適切に取り締まったり、行政が指導・勧告・命令する、これにについてはまだまだ不備だらけです。

動物の遺棄・虐待・不適正飼養はれっきとした犯罪です。その犯罪を厳正に裁くためには、まず命ある動物を速やかに救い出し、適切な捜査がなされなくてはなりません。どれだけ法律が厳罰化されても、その法律がしっかり運用されなければ意味がないのです。法改正されたら、それは警察にも周知されると聞いていますが、実際に現場に来る警察官は、動物愛護管理法を理解していないことがほとんどです。また、当然ですが、動物の扱いに慣れているわけではありませんから、必ず行政の動物愛護管理部局との連携が必須です。

しかし、車中や屋内に閉じ込められ、熱中症や餓死しそうな命の危機にある犬猫がいても、警察や行政が市民の通報を受けて独自で速やかに動いてくれることは、今のところほとんどありません。大抵は、通報者から、またはネットで事態を知った人から、私たちのような動物愛護団体に、「警察も行政も何もしてくれない」という相談がきます。時には動物保護団体からも相談を受けることがあります。

だからといって、民間の動物愛護団体には何の権限もありません。私たちEvaにできることは、問題が起こっている地域が選挙区の議員と、あらゆる人脈を駆使して繋がり、議員の立場から警察と行政に働きかけてもらうよう強く要望することだけ。幸運にも、今まで何度となく救出に成功していますが、議員の圧力がなければ動かないなんて、本来おかしな話しです。

もちろん、そういう問題の根本にあるのは、犬猫の所有権の壁、緊急一時保護の法整備ができていないなど、いくつかの要因はあります。しかし、決定的な問題は、目の前の命を本気で救おうとしない、動物の命と苦痛に対する軽視と意識の鈍さです。

特に行政については、面倒なことを持ち込まれたくない、少しでもリスクあることはやりたくないという傾向があり、そもそもマインドが違うように思います。誤解のないように付け加えると、これは各自治体によってかなり温度差があるので、可能なかぎり責務を果たそうとしているところもあります。ですが、自治体によっては業務怠慢が常態化していて、さらに、不都合なことを隠蔽していると言っても過言でない悪質な場合もあります。今後も問題が起こる度に、この非効率な救出劇が繰り返されるのかと思うと、時間が勝負の救出において、他に術はないのかと憤りを覚えます。

イギリスやアメリカなどをはじめ、欧米諸国には動物虐待やネグレクトを専門的に取り締まる捜査機関があります。国によって名称は違いますが、日本では一般的に、アメリカの影響から「アニマルポリス」と言い議論されることが多いです。アニマルポリスは、逮捕権を有しない組織もあれば、逮捕権を有する警察組織に専門の警察官がいるというものもあります。寄付で運営している民間組織もあれば税金で運営されているものもあります。国によって、その形態もさまざまです。

私は、以前からこうした組織が日本にも必要と強く感じていたので、Evaを設立する前の2013年にも、私が呼びかけ人となり、アニマルポリスの必要性を訴え署名運動を行っていました。
京都で動物虐待・殺傷事件が続いたことと、2012年に動物愛護管理法が改正されたことを受けての運動です。

要望した内容はこうです。動物行政部局と警察との連携が強化されないかぎり、法律を改正しても機能しない。日本全国に一斉に設置されるのが理想だが、設置のハードルを下げるために、地元京都からスタートさせてほしい。これが京都でうまく機能すれば模範例となり全国に広めることも夢ではない。たとえば、動物愛護管理法など法律に精通した警察官を警察署内に担当官として配属。もしくは動物虐待事案の専門部署を設置。または、警察官を動物行政部局などへ出向・派遣。マンパワー不足なら動物行政部局に警察OBを配置するという考え方もあるのではないか。そして、それらをアニマルポリスとして市民に周知。動物虐待事案が発生した場合、管轄の動物行政職員や獣医師とともにアニマルポリスが同行し、必要に応じて指導や捜査を行う。
以上の要望を75,385筆の署名と共に京都市長に提出。わずか半年で集まった多くの署名から、市民がアニマルポリスの設置をどれだけ望んでいるかを感じました。

京都動物愛護センターの名誉センター長を委嘱されている経緯から、府市共同事業のセンターですが、市との関わりからスタートしたという経緯もあり、京都市長へ提出することになりました。市長からは、「京都府・京都府警と連携して、動物虐待犯罪に対処できるよう取り組みます」という前向きな言葉をいただきました。けれど、アニマルポリスの設置まで進まなかったのは、京都府警は京都府の行政機関であるため、今思えば、京都府知事に提出するほうが現実的であったと思います。

ただ、その署名の数に反応してくれたのが近隣県の兵庫でした。活動の中で出会った県議会議員が、それなら兵庫にまず動物虐待事案の相談窓口「アニマルポリスホットライン」を開設すると約束していただいたのです。そこからすぐに県議会議員と県警の方々を対象に研修会が開かれ、アニマルポリスとは何か、その必要性を講師として話す機会を作っていただきました。トントン拍子に事が運び、わずか3ヶ月余りで「アニマルポリスホットライン」が開設されました。その後、本格的アニマルポリスのスタートを期待していましたが、思っていた以上に難しいようです。

それでも、いつか本格的なアニマルポリスが日本のどこかでスタートを切れる日が来ることを願い、可能性のあるところに今も訴え続けています。そして、その可能性を感じたのが大阪府でした。大阪府の吉村洋文知事が大阪市長の時代に、私が「おおさかワンニャン特別大使」に委嘱されたことがきっかけです。

市長時代の吉村知事は、市の動物愛護センターの視察にも積極的に行かれていますが、その度に同行させていただいたり、動物愛護週間のイベントなどでお会いすることも多く、動物問題についてじっくりお伝えする機会が何度もありました。その際、アニマルポリスについてもしっかり耳を傾けてくださっていたので、知事になられたら必ず実現してくださるのではないかと信じていました。

そして、知事になられた直後、吉村知事は2019年10月をスタートに「おおさかアニマルポリス」の開設を発表してくださったのです。動物虐待に関する共通ダイヤル「#7122」(悩んだら、わん・にゃん・にゃん)で受付を一元化。府警と情報を共有し、現地確認・立入検査を行い、指導もしくは摘発につなげるという取り組みを表明されました。

もちろん、これはアニマルポリスのスタートラインに立ったということで、私たちが理想とする本格的アニマルポリスが始動したというものではありません。現場の行政職員の動き方が急に変わるわけでもないでしょう。まだまだ手探り状態なのは百も承知です。行政は、前のめりな熱さを持つ民間の動物愛護団体とはそもそも体質が違いますから、「アニマルポリスが開設されました!さぁ、積極的に悪質な事業者の登録取り消しまでもっていきましょう」とは、なかなかならないのです。まず、動物行政は、悪質事業者や不適正飼養の飼い主に改善させることを目的としているので、動物を救出するということは、時には人の利益を奪うことにもつながるため、以前とは違うマインドを持って業務に就くのは、そんなに容易いことではないようです。けれど、「おおさかアニマルポリス」の存在は、今後の展開に一筋の希望をもたらしたことは事実です。

私たちEvaは、「おおさかアニマルポリス」がスタートして、しばらくしたら、知事に要望したいことがありました。どんな虐待の通報があり、どのように対処したのか、また、その結果がどうなったのか、これらを検証し、問題を洗い出して改善に努めてほしいというものです。

しかし、開設してから間もなく、コロナウィルスの蔓延により、それが各自治体の大きな負担となりました。特に大阪においては病床数の不足など深刻な問題に見舞われ、私たちも要望するタイミングを失っています。いつの日か、この状況が落ち着いたら、検証と改善をお願いしたいと思っています。

Eva設立前から、アニマルポリスの設置を訴え続けて8年が経過しました。日本のどこかに本格的な「アニマルポリス」が設置され、それがきちんと機能して、その役割を果たすには、多くの課題があります。

行政の体質やマンパワー不足、それに必要な予算の捻出、この2つの課題を考えただけでも、これらを補うには民間の力が必要なのではないかと思います。日本の社会や仕組みに合ったアニマルポリスの在り方とはどんなものなのか、この8年で気づいたこと、反省点も踏まえて、その在り方を模索しています。
(Eva代表理事 杉本彩)

※Eva公式ホームページやYoutubeのEvaチャンネルでも、さまざまな動物の話題を紹介しています。

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。