【論説】福井県鯖江市の若手起業家2人が北陸3県「サイバーバレー」を宣言した。鯖江を核として、北陸の地にソフトウエア開発の人材と企業の集積を図るという。国内デジタル化社会の進展を後押しするだけでなく、世界とも競い合う「新経済圏」構築を目指す壮大な構想だ。その行方に注目したい。

 宣言したのは同市で暮らす帝都久利寿氏(33)と福野泰介氏(42)。ともにソフトウエア会社を経営し、IDやパスワードを必要としないインターネットや、子ども向けプログラミング専用パソコンなどを開発してきた。

 サイバーバレーは、米西海岸シリコンバレーの日本版。ニューヨークなど東海岸が中心だった米経済は、今やアップル、グーグルといった巨大企業が立ち並ぶシリコンバレーがリード。東京一極集中が続く日本でも、同様の“革命”を起こす試みとなる。

 開発するソフトウエアのターゲットは、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)に対応した産業・社会インフラ用のデバイス。人間の娯楽を追求する製品が主流の米シリコンバレーと一線を画すところが興味深い。

 シリコンバレーが権勢を振るうスマートフォンなどの市場規模は「世界70億人のうち20億人程度」と人口で測るのが一般的。対してサイバーバレーが担う産業・社会インフラ用は、人間の生活空間全体であり無限の可能性があるという。

 現代社会は「ソサエティー5・0」時代を迎え、あらゆるモノがインターネットでつながっていく。工業用ロボットや、身の回りの電化製品は自律性の高いものへと置き換わり、その一つ一つにソフトウエアが搭載される。その規模を帝都氏は「軽く見積もっても1兆台を超す」と見通す。

 17歳のときシリコンバレーで起業し、19歳で来日した帝都氏。この14年間の日本生活で実感したのが、日本人の信頼性に対する厳格さだった。不具合が許されない産業や社会インフラを制御するソフトウエアの開発は「日本人だからこそできる。日本基準に達したソフトウエアは必ず世界で通用する」と力を込める。

 では、サイバーバレーの中心がなぜ鯖江なのか。それに対する帝都氏の答えも明快だ。

 福井の眼鏡の祖である増永五左衛門は、明治に入り教育が普及すると「読書する人が増えれば、眼鏡はなくてはならないものになる」と、農業が中心だった鯖江を眼鏡の一大産地へと導いた。帝都氏はその先見性と、五左衛門に賛同した市民の柔軟性、寛容性こそイノベーションに最も大切な要素だと説く。鯖江には経済変革への十分な素地がある。