多頭飼育現場から保護された猫

「動物好きに悪い人はいない」
テレビや身近なところで、そんな話しを時々耳にします。でも、それにはとても違和感を覚えます。何故なら、「動物好き」の人が動物を苦しめているという側面があるからです。

「好き」という感情には、「癒されたい」「楽しみたい」という、自分の欲求や満足感だけを求める人間のエゴを感じることがあります。「好き」という感情の根っこにあるのが、エゴなのか、それとも動物の命を尊びその幸せを願う気持ちなのか、それによって「好き」の意味合いはまったく異なりますし、行動も違ってきます。

それに、動物に興味のない人でも、その命の重みを感じている人もいます。また、興味がなければ最初から必要以上に動物に近づきませんし、動物の福祉を無視した悪質なペットビジネスのお客にもなりません。動物にとっては「動物好き」より、むしろそのほうがありがたいのでは、とさえ思うことがあります。そうすれば、むやみに動物を集めたり、ペットビジネスがここまで巨大化して動物が苦しむこともなかったかもしれません。だから、悪い人か良い人かはさておいて、「動物好き」の人が動物を苦しめていることは確かです。

その顕著な例が「多頭飼育崩壊」です。この問題は昔からありましたが、動物愛護管理法の改正や、世の中の動物愛護の機運が高まるとともに、ニュースでも取り上げられることが多くなり、深刻な社会問題として認識されるようになりました。

「多頭飼育崩壊」とは、飼い主が適切にお世話できるキャパシティを超えて、数十匹のペットを飼育している問題です。時には100匹を超えるケースもあり、給餌給水・衛生管理ができていないため、動物の健康状態は非常に悪く、酷く衰弱していることがあります。近隣にも迷惑となる悪臭や害虫などが発生し、家の中は動物によってボロボロに破壊され、劣悪な環境で動物と生活しています。稀に、飼い主は別のところで生活し、動物だけを閉じ込めておくケースもあります。

「多頭飼育崩壊」には大きく分けて4つのタイプがあります。

①社会から孤立し、家族とも疎遠で、その孤独な寂しさを埋めるために動物を飼いはじめ、不妊・去勢手術をしていないので自家繁殖させてしまう。

②捨てられたり、人から頼まれた動物を保護する気持ちからはじまるが、感謝や賞賛されることで承認欲求を満たすため、限度を超えて引き取り続ける。

③動物愛護団体の施設での許容範囲を超えた保護。動物を助けたい、殺処分させたくないという思いから保護しているのに、適切なお世話も治療もできない状態に陥る。悪気はないが結果、動物を苦しめている本末転倒な活動。
また、そもそも志しの違う悪質な団体や、途中から目的がブレ出した団体においては、寄付を集めるために多くの動物を保護することで注目を集め、動物の福祉を充実させるための充分な費用を使わない。結果、劣悪な環境下で適切な管理ができていない。

④事業者の利潤追求から、適正に管理できない数の繁殖犬猫を抱えている。

ここでは、主に①と②の一般飼い主による「多頭飼育崩壊」について書きたいと思います。どちらも飼い主は健全な状態ではありません。

タイプ①については、ご近所とも交流のないことがほとんどです。社会的に孤立している独居老人で生活に困窮し、生活保護受給者であることが多いです。中には電気もガスも止まっているというケースがありました。心の問題や精神疾患を抱えていて、認知症を患っていた人もいます。もはや自力ではどうにもならないケースばかり。増えてしまった犬猫の不妊・去勢手術の費用も莫大になってしまい、支援が不可欠です。

飼い主は、動物の糞尿が堆積し、病気や餓死で死んだ動物の死体を放置した家で暮らすことに問題を感じていないため、救済の手を拒みます。現行の法律では、本人の許可なく家に入り動物を保護することはできないので、心を閉ざした飼い主を説得して動物たちを保護するのは至難のわざです。

タイプ②については、動物愛護の思いが強く、個人で動物保護ボランティアとして活動しているケースです。

昨年起きた事件ですが、動物保護団体などから頼まれ犬や猫を引き取っていた京都府の女性が、排泄物や動物の死骸が放置された自宅で数十匹の犬猫を飼育していたことから、動物愛護法違反で逮捕されました。事件後、この女性を知る人に印象を聞きましたが、昔は熱心なボランティアで、見た目の印象もニュースに映っていたような疲れ果てた感じではなかったそうです。

このケースは、多数の動物保護団体から頼まれるがままに引き取っていたことが崩壊の要因だといわれています。どんな状態の子も引き取ることから「神様」と賞賛されていたそうで、いつからか動物の幸せではなく、その承認欲求を満たすことが目的となっていったのでしょう。

驚くことに、遠く茨城県の動物保護団体からも6匹の犬を引き取っていました。この犬は団体が茨城県の動物愛護センターから引き取り、空輸で京都に運んだようです。譲渡した団体は、「神様」のもとでどんな環境に犬たちが置かれるのか、そのあと犬たちが最終的にどうなったのかも確認していなかったのです。

この事件は、「多頭飼育崩壊」のタイプ③に記した動物保護団体が無責任に京都の個人ボランティアに犬を押し付けたことで、受け皿となった個人ボランティアの崩壊を招いたと思われます。そもそも、団体が預かれる許容範囲を超えて犬を引き取ったことが問題です。「多頭飼育崩壊」を起こした当事者だけでなく、団体の責任も重大です。
この事件は、動物の幸せという本来の目的をおろそかにし、保護する数だけを重視した、いびつな保護活動による負の連鎖が生んだ悲劇です。

「多頭飼育崩壊」は、もちろん本人が招いた問題です。動物を守りたい人々の気持ちとしては、飼い主や事件を起こした当事者に当然怒りを感じます。けれど「多頭飼育崩壊」には、このように複雑な背景があります。
タイプ①のような場合は、セルフネグレクトに陥っている人とペットを放置してきた社会にも問題があると思います。社会福祉や公衆衛生の観点からも、法律を整備したり、現行法でも可能な対策が必要だと、Evaだけでなく多くの動物愛護団体は訴えてきました。

環境省の調べによると、平成30年度には、多頭飼育に関する苦情が2000件余り寄せられているそうで、どの自治体でも地域社会の取り組むべき課題となっています。

そしてようやく、先頃、環境省は「多頭飼育崩壊」の防止につなげるための「人、動物、地域に向かう多頭飼育対策ガイドライン」を作成しました。「多頭飼育崩壊」の背景にあるこうした問題を踏まえ、「飼い主の生活支援」「動物の飼育状況の改善」「周辺の生活環境の改善」という3つの観点から、動物管理部局と社会福祉部局が情報を共有し、飼い主への指導とペットの不妊・去勢手術や引き取り・譲渡の推進を、連携して取り組むよう全国の自治体に呼びかけています。

さらに、動物のケアや捕獲などの取り扱いに慣れている、動物愛護ボランティアとの連携が重要であるとしています。また、立入検査には、それを拒む飼い主とのトラブルが予測されますし、動物虐待の通報の受理や捜査も行う警察との連携も同じく重要です。

「多頭飼育崩壊」の対策には、最悪の状況に陥る前に、初期段階での探知と発見が何よりも大切です。不幸な動物を生み出さないよう人とペットが健全に暮らすためには、不妊・去勢手術の徹底が求められています。動物愛護の基本は、繁殖制限。きちんとお世話できない数のペットを飼育することは動物を苦しめることになりますし、法律上も動物愛護法違反です。

けれど、「多頭飼育崩壊」は、一度解決しても、再び動物を拾ったり譲り受けたりし、再発をするケースが多いという報告があります。再発防止のためには、飼い主を社会から孤立させないよう、地域の人々と自治体の各関係機関が連携して見守りを続けること。そうすることで、再びその兆しが表れた場合には、早い対応が可能となります。

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もしも、ご近所に臭いや鳴き声、状態の悪いペットがいたり、多頭飼育による問題があるかもしれないと感じたら、迷わず自治体の動物愛護管理部局に連絡をして、状況の確認を求めてください。皆さんのその行動が、動物と飼い主を救い、地域の環境を守ることにつながります。

(Eva代表理事 杉本彩)

※Eva公式ホームページやYoutubeのEvaチャンネルでも、さまざまな動物の話題を紹介しています。

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。