移動動物園で、散乱した餌の上で横になるブタ=東京都内

「ここにヒヨコがいっぱいいるよ!」
そう言って、たくさんのヒヨコが入れられた大きな箱に子どもを呼び寄せる母親。箱の内側には「やさしくさわってね」の張り紙があるだけで、触り方の説明はなく教えてくれる大人もいない。
ポニーの乗馬体験では、炎天下の屋外で1頭のポニーに休みなしで次々に子どもを乗馬させている。ヤギや豚、リクガメは、ふれあい動物園の開催時間中、常に暑い屋外に展示され、制限のない餌やりで柵に投げ込まれたキャベツやニンジンには目もくれず、狭い柵の隅で動かずにいた。

「幼少期の情操教育の一環として…」、「小動物と触れ合う機会を通して、子どもたちに思いやりの心を育む…」、移動動物園やふれあい動物園の開催目的は、たいていこのような内容です。ですが、果たしてそこに動物の福祉はあるでしょうか。動物は、暑さ寒さで不快でも、痛みや恐怖を感じても、それを伝えることもそこから逃げ出すこともできません。

移動動物園でよく使用されるヒヨコやうさぎを例にしても、それぞれ理想的な飼育温度は違いますし、夏場の屋外では熱中症の危険もあります。反対に、熱帯地域が生息地の動物にとって日本の秋冬は非常に過酷です。そもそも生息地も生態も異なる多種の動物を、同じ「ふれあい」の環境下に置くこと自体、適正気温や湿度等、環境の実現が出来ないことから、多くの動物に負担がかかります。
また小動物は、性質も臆病で敏感です。不特定多数の人間にむやみに触られることで大きなストレスがかかります。子ども一人にモルモットやヒヨコを時間で割り当てる「ふれあいタイム」では、ヒヨコを片手でわしづかみしたり、動物が入っているカゴを地面に落としてしまうお子さんもいました。

私たち大人は、動物が大好きで心優しい子どもたちに、時にアプローチの仕方を間違えてしまいます。動物を慈しみ心豊かになるということは、単に動物に触るだけではなく、その動物の気持ちを想像すること。目の前にいる動物が健康そうで楽しそうに過ごしているか、今暑くないか寒くないか、震えている姿や仲間とくっついて動かないのは何を意味しているのか?そうした動物の立場になって、気持ちをおもんぱかることが真の「ふれあい」です。見ず知らずの人に一方的に触れられることは、私たち人間にとっても恐怖です。私たちとは異種である動物だからこそ、その配慮が必要です。動物たちの気持ちを考えずに一方的な興味だけで触れ合うことは、動物を好きに扱ってよいということを学ばせてしまうことにつながります。

もし移動動物園を街で見かけたら、ぜひお子さんと一緒に、中にいる動物の本来生きる環境を想像してください。気温、湿度、広さ、個で生きる動物か群で生きる動物か、そばに捕食関係の動物がいないか。そしてそれらの影響で、今その動物はどういう行動をとっているか。同じ場所を行ったり来たりしていたり、頭や足を同じリズムで振っていませんか?それは動物たちがダンスをしているわけではなく「常同行動」という、精神的な不安が平均レベルを超えている大きなストレスサインです。ぜひ勇気をもって飼育員の方にお話しし、その環境を改善し人目につかない場所で休憩をさせるようお願いしてください。そしてふれあいコーナーがあっても触らずに動物の気持ちを想像し見守ってください。

それは、周りの人に対しても言えること。お友達の表情や行動から心情を読み取ることで相手の気持ちを想像し、思いやりのある行動につながります。そして相手の気持ちは自分と違うということが分かり、価値観を尊重しお互いの考えを共有することができます。そうした人間関係は、自分を大切にする心にも結びつくでしょう。

子どもたちはたった数年で、多くのことを自らの意思で選択できる年齢になります。その貴重な人生にはさまざまな出会いがあるでしょう。そうした時に、目の前に言葉を持たない動物がいたら、今何を求めているのか、自分に出来ることは何か、そんな動物に心を寄せることができる大人になっていただきたいです。

※Eva公式ホームページやYoutubeのEvaチャンネルでも、さまざまな動物の話題を紹介しています。

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。今回のEva通信は、当協会Eva代表理事の杉本彩と共に、日頃活動しているEva事務局長の松井が、移動動物園のふれあいについてお伝えしました。