蔵の2階に設けたスペースはセミナーや展示会などに最適。「ものづくり企業と一緒に勉強して成長していきたい」と語る杉谷昌保さん=福井県越前市粟田部町の「la・kura」

 白壁に黒い板張り、太い梁(はり)が目を引く明治期の実家の蔵を改装した、デザイン事務所「la・kura(ラ・クラ)」のオフィスが4月に完成した。長くカーデザイナーとして活躍してきた杉谷昌保さん(48)は昨年、古里の福井県越前市粟田部町に帰ってきた。「ここからものづくりの楽しさを発信したい」と意気込む。

 エルグランド、セレナ、リーフなど、誰もが知る日産自動車の車のインテリアデザインを手掛けてきた。2017年には2代目リーフの開発で設計や生産、企画部門の調整役を担い、デザイナーたちの思いを形にした。

 華々しいキャリアを積む中、5年ほど前から古里への思いが強くなった。「年を取った両親のことが心配になってきて」。好きに生きろと送り出されて30年近くたっていた。「培った経験を生かしたい。一回だけの人生、福井でチャレンジしよう」。独立開業を決意し20年3月に退職。新型コロナウイルスの渦中だったが「コロナはいつか晴れる。それから準備したのでは遅い」と踏み出した。

 妻と2人の子どもは住み慣れた神奈川県に残しての帰郷。越前市に相談すると「新しいUターンの形だと歓迎された」。U・Iターンを対象とした県の助成金を得て開業準備に入った。

 やりたいことは決まっていた。ものづくり企業に寄り添い、デザインや開発をサポートしたり、セミナーを企画したり「古里のものづくりを盛り上げる」仕事だ。越前和紙に打刃物、箪笥(たんす)、織物、眼鏡と「福井はものづくりが集約した地域だと、帰ってきて改めて実感した」。

 自らデザインし半年かけて改装した蔵には、事務所のほか3Dプリンターやレーザーカッターを備えたラボ、2階には多目的ルームを設けた。アイデアや意見を交わし、試作し、商談もできる。既に県内の2社と契約し、商品開発などのプロジェクトを進めている。

 日産時代の09年から毎年、県内の小学校で授業をした。「幼い頃のいろいろな夢がまざり合ってカーデザイナーになった」という自らの体験を語り、ものづくりの魅力を伝えてきた。

 入社したての頃にドアの内装をデザインした、タクシー用のセドリックセダンは今も走っていて、見掛けるたびにうれしくなる。「頑張ってきた証しが残っている。そんな喜びをいろんな人と共有したい」と目を輝かせた。

【すぎたに・まさやす】1973年、旧今立町(現越前市)生まれ。武生高、京都工芸繊維大卒。96年に日産自動車入社、カーデザイナーとしてデザイン開発業務に携わる。2018年に日産の関連会社クリエイティブボックスでデザイン・プログラム・マネージャー。20年12月、越前市に株式会社「la・kura」を設立した。