小浜で暮らしていて、一番小浜らしさを感じるのは、「小浜の伝統行事」に触れたときだ。

 6年前に僕が初めて小浜市に来てしばらくたったある日、知り合いの魚屋さんと話をしていたところ、何やら「今年は特別に忙しい」という話になった。その年の区長の役が当たり、「放生祭」の準備が大変だというのだ。僕は、軽い気持ちで「自分も参加したい」とお願いした。

 その時、僕の頭にあったのは、大学の時に参加した京都のある祭事だった。それは、大学の掲示板で募集され、当日現地に行って、用意された衣装を着て練り歩くという、地域文化を体験してお金までもらえる一石二鳥のアルバイトだった。

 しかし、小浜では雰囲気がちょっと違う。これまで、全く地区に縁がない人が祭りに出たことはないらしい。

 「やるなら本気で参加しろよ」と何やら異様に強く念押しをされ、「まずは祭りの『師匠』に参加していいか伺いを立てる」というのである。ちなみに、僕が参加した地区は広峰という区で、演目は大太鼓だ。

 数日後、一応、師匠の許可は下りたらしく、今度は広峰区の青壮年の方があいさつに来てくれた。「小さい頃から祭りに参加している地元の人と同じようには太鼓を打てないと思うが、きちんとできなければ祭りに出すわけにはいかないから、しっかり練習するように」と、またしても念を押された。ちょっと大げさではないかと思うほどだ。

 そして、稽古始めの懇親会を皮切りに、僕の1カ月に及ぶ太鼓漬けの日々が始まった。

 毎日夕方になると、地区の子どもから大人まで皆集まってきて、2時間ほどみっちり練習する。大太鼓を打ったことなど全くなかった僕は、師匠に一から教えてもらったが、なかなか思うように打つことができない。さらに太鼓の「譜」を覚えなければならないのだが、これがまた難しい。さらに、週に数回は稽古後に路地にゴザを敷いて慰労会が始まり、飲みながら祭りの話が夜な夜な続くのだ。皆の祭りに込める想(おも)いは尋常ではないほど熱い。

 僕は不器用なこともあって太鼓を覚えるのにかなり苦戦したが、稽古はほぼ皆勤でなんとか1曲覚え、無事本番の祭りを乗り切ることができたのだった。

 1カ月に及ぶ稽古と祭りの本番をやり切り、足洗いをする頃には、地域にしっかりと息づくこの放生祭の魅力に、僕はすっかりハマってしまった。京都でアルバイトとして参加した祭事とは全く違い、観光客に見せるためではなく、自分たちのために祭りをしているのである。

 小浜市が調査したところによると、放生祭のほかにも市内各地で、年間600を超える祭りや講、神事など大小さまざまな伝統行事が行われているそうだ。新聞を見ていると、まだ知らない行事が市内各地で行われているし、実際のところ、新聞に載る行事はごく一部だろう。

 小浜の人たちは全国どこでも同じように祭事が行われていると思っている節があるが、全国を見ても、このような地域はそうはないと思う。

 小浜には豊かな自然や歴史、食材などがあるが、表層だけの観光資源を見るだけでは小浜の本当の魅力は伝わらない。豊作豊漁や家内安全などを祈り、先祖や自然の恵みに感謝する気持ちが脈々と受け継がれ、日常の暮らしの中で実践されているということこそ、小浜最大の魅力ではないだろうか。

 僕は今、観光の仕事に携わらせていただいているが、観光で訪れた方に一番知ってもらいたいのは、小浜の暮らしの根底にある祈りや感謝の気持ちだ。地域の方とともに、伝統行事を将来により良い形で繋(つな)ぎ、魅力を伝えていくことこそ、小浜の観光やまちづくりを進める上で、最も大切なことだと考えている。

⇒エッセー「時の風」一覧

 ■みこしば・ほくと 1984年長野県伊那市生まれ。京大大学院農学研究科修士課程修了。2009年農水省に入省し環境保全型農業や担い手育成、再生可能エネルギー、スマート農業などを担当。2015年から3年間、小浜市役所に出向。19年同省を退職し、小浜市へ移住。