男性が受け取った亡き母親の遺品。孫からのバースデーカードの封筒(左)は閉じられたままだ=福井県坂井市内

 2021年1月に40人を超える新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生した福井県内の高齢者施設で、感染後に亡くなった入所者の遺族が福井新聞の取材に応じた。新型コロナに対する世間の緊張感の薄れを感じるという遺族は、「若い人は重症化しないかもしれないが、そこから飛び火して悲劇を招くことがある。全員が緊張感を持ち続けてほしい」と訴えている。

 福井県坂井市の60代男性が1月中旬、施設に入所する90代の母親に面会する準備をしていた時、自宅に電話が入った。「コロナが発生しました。今日の面会はできません」。施設からだった。1時間後に再び電話で母親の発熱と陽性を伝えられた。母親は翌日、福井市内の病院に入院した。

 入院後も面会できず、看護師が連日電話で容体を知らせてくれた。いったん熱は下がり回復を信じたが、その後に肺の機能が低下してきた。医師から「覚悟してほしい」と告げられた。

 1月下旬の午前5時、危篤の連絡。同8時に電話で母親の死を知った。正午すぎに病院に着くと、母親は既にひつぎの中だった。小窓から遺体を収めたビニール袋越しに、少しだけ顔を見ることができた。医師や看護師が見送ってくれた。

 市役所で必要な手続きをして火葬場に向かい、入り口で防護服のスタッフにひつぎを預けた。その1時間半後に骨を拾い、午後6時には自宅に戻った。母親の死から12時間足らず。「都会でもない福井で静かに暮らしていた母親が、なぜこんな目に遭わないといけないのか」。小さな骨箱をぼうぜんと見詰めるしかなかった。

 2月下旬、感染が落ち着いた施設で母親の遺品を受け取った。出迎えてくれたスタッフは泣いていた。愛用の腕時計、スタッフが作ってくれた母親の笑顔いっぱいのアルバム、海外で暮らす男性の娘が送ったバースデーカード入りの封筒。母親は入院中に最後の誕生日を迎えた。封筒は閉じられたままだ。

 介護してくれた施設には誹謗中傷もあったという。病院の医療従事者を含めて「責める気持ちは全くない。とても感謝している」と男性。

 母親の死を通じて実感したコロナの恐怖。県内では3月以降も高齢者施設でクラスターが発生している。一方で、毎日のように県外との往来や会食で感染が広がるニュースに触れる。「母親は施設から出ず、家族も面会を我慢していたのに感染した。自分の気の緩みが、どこかの高齢者を危険な目に遭わせるかもしれない。自分の問題と考えてほしい」と何度も繰り返した。