救助されたミニボート(2021年3月・福井県福井市)

なぜ、海の水はしょっぱいのか。
太古の昔、地球上を覆っていたガスが雨に溶けてできた海の成分には塩酸が含まれていたので、最初はすっぱかったんだそうです。
それから長い年月をかけて中和され、そして現在の「海」ができました。
しょっぱさの元は、塩酸の海が岩石を溶かした成分と塩素が結びついたものなんだそうな。

と、ここまでは本編と全く関係のないお話です。
私が最近知った海のうんちくを誰かに言いたかっただけ。笑(公私混同)

今回は、これまでも何度かお話ししている「ミニボート」にまつわる事故のお話。
ミニボートとは、船体の長さが3メートル未満で、エンジンの出力が1.5キロワット(約2馬力)未満のボートのことを言います。
このミニボートは、船体の検査や操縦するための免許が必要ありません。
つまり、船体の安全性が保障されていなくても、また、操縦する人に知識や経験が全く無くても海に出ることが“法律的”には可能なんです。
船体が小さく車で持ち運びもできてとってもお手軽!インターネットなどで安く買うことができるようになり、釣りを愛する方々には魅力的なツールですよね。
ですが、“安全面”ではどうでしょう?・・・

2021年3月中旬、福井県福井市沖合の海上で、お客さんを乗せた釣船の船長さんから第八管区海上保安本部運用司令センター「118番」に通報がありました。
内容は「ボートから海に落ちていた人を救助した。現在、漁港に向けて搬送している」というもの。
救助していただいた釣船の船長さんに詳しく話を聞くと、午前9時半ころお客さんを乗せて沖合で釣りをしていたところ、助けを求める声が聞こえたため、その方向を見ると海に落ちてボートにしがみ付いている状態の男性を発見し、お客さんと力を合わせ釣船に引き揚げて救助したということでした。

救助時、事故者の男性は意識が朦朧としており、漁港から救急車で病院に搬送されました。診断の結果、低体温症で体温が31度ほどと一時危険な状態でしたが、治療を受けて無事に即日退院されました。

なぜ事故が起きたのか。男性に経緯を聴きました。

男性は、当日の朝6時ころ、福井県福井市の砂浜から一人でミニボートに乗り出港して、岸から2キロほどの範囲で釣りをしていたそうです。
そして、陸の方向に向かってボートを走らせていたところ、ボートの後ろ側から波を受けてバランスを崩し海に落ちてしまったということでした。
当日の波の高さは1メートルほど。小さいミニボートにとっては、バランスにかなりの影響を与える波の大きさです。
それに、船を走らせているときに後ろ側から波を受けると、波の上に乗ってしまって操縦できなくなることがあり、とても危険なんです。

男性は海に落ちてしまいましたがライフジャケットを着ていたため、なんとか浮かんでいられることができましたが、船は?・・・
と周りを見てみると、ミニボートの船外機が動いたままの状態で、無人で海の上を旋回し走り続けていたのです。
男性は、何度もボートに近付いて止めようとトライするものの、なかなかうまくいかず、体力だけが奪われていきます。
そして転落から約30分後、男性はやっとの思いで船外機のエンジンを止めることができ、一安心。

男性はとりあえず、着ていた胴長(靴から胸下まで一体の防水スーツ)のポケットに入っていた防水スマホが壊れてしまわないように先にボートの中に投げ込み、続いて自分もボートに這い上がろう・・・這い上が・・這い・・上がれませんでした・・・
そう、体力を消費してしまい、海水に濡れて重くなった体でボートに上がる力が残っていなかったのです。

当日は3月中旬の暖かい日でしたが、海水の温度は実際の季節よりも1~2ヶ月遅れてくると言われており、つまり、海の中は1月から2月の真冬の状態。
ボートにしがみ付く男性の体力と体温をさらに奪い危ない状態です。
しかも、ボートの中に投げ込んだスマホには手が届かなくなり取ることができず、海保などに救助を要請することもできない状態に陥ってしまい、大声で周りに助けを求めていたところを、偶然気付いた釣船に助けられたということでした。

早く発見されたことによって、ケガや命に別状なく本当に良かったという事故でしたが、春先の海水温度ではライフジャケットを着用していても意識を保てる時間はせいぜい1時間程度。
大切なのは、海に落ちてしまった時点でためらわず、すぐに海上保安庁などに救助を要請すること!
防水スマホを携帯していたことは海の安全上とても良いことですし、病院に搬送された後に確認してみると男性の防水スマホは問題なく動いていました。
しかし男性は、海に転落してしまったとき、「ボートに上がりさえすれば問題はない。海保などに通報して大事にしたくなかった。」というふうに考えたようです。
海上でボートから海に落ちてしまった時点で、もうそれは「事故」です。つまりすでに命にかかわる十分な「大事」となっているのです。

実際に“しょっぱい”体験をした男性は、身をもってそのことを分かっていただいたようでした。
もしものことがあって、家族に涙の“しょっぱさ”を味あわせる事態にならなくて本当に良かったと思います。
男性の「大事にしたくなかった」という気持ち、わからないこともありません。ですが、それは海を“甘く”考えすぎているのではないでしょうか。(敦賀海上保安部・うみまる)