【越山若水】英語の慣用表現「他人の靴を履いてみる」とは「相手の立場になって考える」という意味らしい。英国在住の保育士・作家、ブレイディみかこさんのノンフィクションに教わった▼一昨年のベストセラー「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」(新潮社)である。そこには公立中学校に通う一人息子の葛藤、人種差別や貧富の差など英国の社会問題が描かれる一方、子どもの個性や人権尊重など日本とは異なる授業の特徴も紹介される▼政治や社会の問題を学習する「公民」の試験でこんな出題があった。「エンパシーとは何か」―。驚きを隠せぬ父親は息子に尋ねた。「お前、何て書いたんだ」。息子は得意そうに答えを返した。「めっちゃ簡単。自分で他人の靴を履いてみること、って書いたよ」▼ブレイディさんによると、類似語の「シンパシー」は自分と似たような環境の人に共感を示す行為。対して「エンパシー」は意見や経験が違う人の境遇まで想像できる能力をいう。となると、エンパシーには他人の靴、つまり相手の立場を考慮することが重要になる▼日本はちょうど入学式シーズン。移民や貧困問題は英国ほど深刻ではないが、いじめの認知件数は2019年度で61万件余りと過去最多。命や心身の危険がある重大事態も増えている。今こそ「他人の靴を履いてみる」、思いやりの教育が求められる。