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 吉田大八は、『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』を経て集大成と呼べる大傑作『美しい星』を撮ってしまったことで、憑き物が落ちたような気がする。監督デビュー以来一貫して原作ものを手掛けながら、他人のアイデアを自らの掌中に落とし込んで唯一無二の作家性を発揮してきたが、それ以降は作家的な野心よりもエンタメ性の方向にシフトチェンジしている印象を受けるから。特に今回は、吉田大八の新作というよりも純粋な娯楽映画として楽しんだ。

 原作は、『罪の声』の塩田武士が主人公に大泉洋を当て書きした同名小説。権力争いに揺れる大手出版社を舞台に、お荷物雑誌の編集長が生き残りを懸けた騙し合いバトルを仕掛けるというものだ。劇場などで流れる予告編や一筋縄ではいかない吉田作品のイメージから、後半に世界観自体を覆すような大どんでん返しが用意されたメタフィクション的な構造を予想していたのだが…いい意味で裏切られた。

 つまりオーソドックスな逆転劇。二転三転する展開は先が読めないものの、エンターテインメントの枠は踏み外さない。出版業界に身を置く端くれとして、一喜一憂しながら推移を見守っていただけに、覆されなくてむしろホッとした。うがった見方をしなければ、吉田監督のストーリーテリングの腕前は掛け値なしに一級品なのだ。もちろんファンとしては、それはそれで物足りなさも残るのだが。★★★★☆(外山真也)

監督:吉田大八

原作:塩田武士

出演:大泉洋、松岡茉優

3月26日(金)から全国公開