鳥の姿を追う五十嵐礼子さん(左から2人目)ら。三方五湖はさまざまな種類の渡り鳥を引き寄せる=2月5日、福井県若狭町の久々子湖畔

 8倍の双眼鏡を両手で構え、ファインダーをのぞく。朝日にきらめく湖面を赤茶色の頭をしたホシハジロがスーッと泳ぐと、餌を求めて水に潜った。奥では、その名の通り尾羽が長いオナガガモが毛繕いしている。冬の湖の常連たちだ。後方の里山からは、「ピョー、ピョー」という鳴き声が聞こえてきた。

 2月上旬の朝、福井県の若狭町と美浜町にまたがる久々子湖のほとり。晴れ渡った空の下、ダウンジャケットに毛糸帽の五十嵐礼子さん(70)=若狭町=ら5人の姿があった。探鳥会だ。

 久々子湖を含む三方五湖は希少な湿地としてラムサール条約に登録されている。とりわけ冬場は、大陸からコハクチョウをはじめとする多くの渡り鳥が冬を越しにやってくる。野鳥にとって“約束の地”だ。

 五十嵐さんは、澄んだ空気の中に身を置き、双眼鏡越しに鳥たちを眺めていると、湖や山に包み込まれるような感覚がするという。「野鳥観察をしていると、自然と一体になれるんです」

 10年ほど前に、横浜市から若狭町へUターンした。知り合いに誘われて野鳥観察を始めたのは2年前。三方五湖が五十嵐礼子さんのフィールドだ。

 双眼鏡や単眼鏡で鳥を確認し、持参した図鑑で調べる動作を繰り返す。見ることができる鳥は季節によって異なる。冬場ならコハクチョウやマガモといった水鳥をはじめ、褐色の小鳥アトリなど。「次は何の鳥に出合えるだろう」。期待を胸に湖畔へ足を運ぶ。

 好物の二番穂がある水田が近く、外敵に襲われない水辺で羽休めができる五湖は、さまざまな渡り鳥を引き寄せる。湖ごとの塩分濃度の違いが餌となる魚の種類の豊富さにつながり、訪れる野鳥の多様性を生んでいる。

 体の色や羽の形が似ていて見分けがつかない鳥も多いが、「体全体でなくパーツに着目すると区別できますよ」。久々子湖畔での探鳥会に同行した「日本野鳥の会福井県」副会長の小嶋明男さん(65)が説明する。脚やくちばしの形状などを確認してから図鑑を見ると分かりやすいという。

 「ピョー、ピョー」。後方の里山から鳴き声がした。声の主を探すが姿は見えない。観察歴30年の小嶋さんがすかさず「あの声はアオゲラですよ」。「おー」。五十嵐さんが小さく声を上げ、早速図鑑を開いた。

 生き物の存在を身近に感じ、少しずつ研ぎ澄まされる五感。「都会にはない環境。生き生きとしてきます」。五十嵐さんにとって湖畔のひとときは、古里のいいところを再発見する時間。湖面伝いに吹いてくる引き締まった風も心地いい。