消費税の歩み

 今年は衆院選が行われます。リベラルを自認する僕は野党に言いたい。政権批判も大事だけど、それだけで新しい社会はつくれません。新型コロナウイルスで苦しんでいる今こそ、ポストコロナの税論議を堂々と仕掛け、痛みと喜びを分かち合って、弱者を生まない社会へと日本をつくり変えよう―。国民にそう訴えて、自公政権の対立軸を示してほしいと思います。

 野党には消費税の5%減税を訴えている人がいます。計算してみましょう。実現したら下位20%の低所得層に年8万円が返ってきます。50年間こつこつためて400万円。やっと子ども1人分の大学の学費です。一方、上位20%の富裕層には年23万円が戻ります。本当にこれでいいのでしょうか。

 消費税を使って暮らしを豊かにしたのがヨーロッパのリベラルです。しかし、日本のリベラルにはその発想が乏しい。消費税が導入された1989年、参院選で与野党が逆転した経験をずっと引きずっているのです。社会党の委員長だった土井たか子さんの言葉「山が動いた」は有名ですよね。

 一方、自公両党は2017年衆院選で、消費税の増税とセットにして、幼児教育、低所得層の大学授業料の無償化を訴えて大勝しました。まさにベーシックサービスの実現です。かたや野党は、17年衆院選も19年参院選も消費税の増税反対とか減税や凍結、廃止を訴えてボロ負けしています。「山が動いたシンドローム」は終わらせるべきです。

 衆院選に向け、野党は共闘態勢の構築を急いでいます。「野党候補が複数立候補すると自民党を利する」というのはもっともです。だけど、野党共闘となると左派に気を遣ってリベラルは消費税の増税が言えない。分配するパイがなければ、思い切った政策は打ち出せません。一方で借金によるバラマキは国民が底の浅さを見透かします。

 コロナ禍で増税は難しいという声があります。19年10月に消費税率が8%から10%になり、増税分2%のうち1%は幼児教育や低所得層の大学授業料の無償化に、残り1%は財政健全化に使われるようになりました。5%から8%への増税時に財政の立て直しはだいぶ進みましたから、「財政健全化の1%の使途を変更し、ベーシックサービスを手厚くする」と訴えるのです。税率そのままで暮らしを豊かにできます。

 その上で、数年後のコロナ終息を見据え、ベーシックサービスの充実で将来不安をなくす「新しい増税論」の説明に言葉を尽くすべきです。財源論から逃げる限り、野党の社会ビジョンは見えてきません。

 自己責任社会を招いた責任の一端は野党にもあります。税金は取られるだけなら誰だって嫌ですが、使い道を考えることによって、貧しい人が幸せになれる社会がつくれます。この当たり前の議論を日本のリベラルはしてこなかった。

 右肩上がりの時代は、困っている人を助ければ、みんなが幸せになれた。でも今は大勢の人が苦しんでいる時代だから、一部の人を助けても、みんなが幸せになれない。野党、いや、今の政治には、分断社会を終わらせる新たな哲学が必要なのです。

⇒【連載】税・分断から連帯へ 井手英策・慶応大学教授インタビュー

  ×  ×  ×

 新型コロナウイルス禍で生活不安に拍車が掛かっている。自分のことで精いっぱいで利他の心を見失いつつある分断社会を、ともに支え合う連帯の社会にどう再生していくべきか。財政学者の井手英策氏(慶応大学経済学部教授)に聞く。

 ■いで・えいさく 1972年福岡県生まれ。東京大学経済学部卒。東京大学大学院博士課程単位取得退学。横浜国立大学大学院助教授などを経て現職。専門は財政社会学。「経済の時代の終焉」で大佛次郎論壇賞。「幸福の増税論」「欲望の経済を終わらせる」など著書多数。