ベーシックサービスによる再分配のモデル図

 今後も大幅な経済成長が見込めない中、誰もが不安から解き放たれる社会をつくるにはどうすればよいか。僕は、税のベストミックスを真正面から議論し、痛みと同時に喜びを分かち合う「ベーシックサービス」を提唱しています。

 病気にならない人はいません。生まれてから死ぬまで、教育はいらない、障害者にならない、介護は不要と断言できる人もいない。だから、命や暮らしにダイレクトに関わるサービスを全ての人に無償で提供する。その代わり、みんなで負担を分かち合い、貧しい人も当然の権利として堂々と大学や病院に通う。貯蓄ゼロでも不安ゼロ、弱者を助ける社会から弱者を生まない社会に変える。これがベーシックサービスの考え方です。

 税負担の一例として▽年収200万円のAさん▽年収600万円のBさん▽年収千万円のCさんに同率25%を課すと、合計で450万円の税金が入ります。これを3人に同じ150万円ずつ医療や介護、教育などのサービスとして無償提供します。すると、最終的な暮らしの水準は▽Aさん300万円▽Bさん600万円▽Cさん900万円になって格差が縮小します。

 Cさんは反対するのではとの見方もあるでしょう。でも皆さんは、自分が損をする可能性に気づいた上で、予測不能な事態に備えるために、さまざまな保険に加入しているはず。それと同じことです。

 例えば自分の年収が千万円、パートナーも年収千万円の夫婦がいたとします。計2千万円の年収を前提に住宅ローンを組み、子どもの数や教育水準を決めるでしょう。でも、どちらかが病気になって仕事をなくしたら…。この国は、富裕層もひっくるめて、運が悪かったら誰もが不幸になる社会。だからこそ、みんなが頼りあえる社会に変える必要があるのです。

 財源はどうするか。誰もが痛みを分かち合い、多額の税収をもたらす消費税を中心に、多様な税の組み合わせを考えるべきです。

 消費税の1%分は2・8兆円です。税率を6%上げたら17兆円の税収が生まれます。これで大学授業料、医療・介護費、障害者福祉などを全て無償化できます。介護士や保育士の給与引き上げ、義務教育の給食費の無償化もです。さらには、先進国の常識なのに日本にはない住宅手当も創設できます。1%アップだけでも、低所得層に限られている大学授業料の無償化を全ての学生に拡充できるのです。

 消費税の増税は低所得層の負担が増すとの意見も聞かれます。ベーシックサービスによって、年間100万円の大学授業料が無償化されたとします。年収1億円の世帯にとっては1%の意味しかありませんが、年収100万円の世帯には100%の効果がある。貧しい人も痛みを分かち合う一方、巨大な受益がやってくるわけです。

 僕は貧しい家庭の生まれでした。学生だった頃の僕と母に聞いてください。「消費税が1%上がるけど、その代わり大学授業料がただになるよ」って。泣いて喜びますよ。富裕層の安心を生み、貧しい人にも大きなメリットがあるのがベーシックサービスの強みです。

⇒【連載】税・分断から連帯へ 井手英策・慶応大学教授インタビュー

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 新型コロナウイルス禍で生活不安に拍車が掛かっている。自分のことで精いっぱいで利他の心を見失いつつある分断社会を、ともに支え合う連帯の社会にどう再生していくべきか。財政学者の井手英策氏(慶応大学経済学部教授)に聞く。

 ■いで・えいさく 1972年福岡県生まれ。東京大学経済学部卒。東京大学大学院博士課程単位取得退学。横浜国立大学大学院助教授などを経て現職。専門は財政社会学。「経済の時代の終焉」で大佛次郎論壇賞。「幸福の増税論」「欲望の経済を終わらせる」など著書多数。