人間性を疑われそうだが、花束が苦手だ。頂いた暁には「わー」と感嘆の声をあげるけど、家に持って帰っても上手に活けられないし、なにより枯れていくのを見るのが悲しい。だから鉢植えをもらう方が100万倍嬉しいけど、観葉植物にも趣味ってもんがあってだな。てなことばっかり言ってたらすっかり四十路目前の可愛げのない人間に仕上がった。

 そんな曰く因縁付きの花束だけど、タイトルの意味はわからなくとも本書は読む。なぜなら愛してやまない脚本家・坂元裕二が原作の小説だから。本書は、坂元が脚本を手掛けた同名映画のノベライズである。

 主人公は山音麦と八谷絹。2015年から2020年の5年間の物語で、二人の男女が出会い、別れるまでの物語だ。大学生の麦と絹は、ある夜、終電を逃したことがきっかけで出会う。お互いを知らない、探り探りの会話の中で語り合うのは、好きな本、好きな音楽、映画、演劇のこと。自分が大切にしているもの、自分自身を形作ったものを通して二人は、少しずつお互いを知り、惹かれ合っていく。順風満帆だった日々はしかし、それぞれが社会に出たことで、徐々に形を変えてゆく。

 美しいものだけを見ている日々が許されていた時間は学生時代で終わり、社会の厳しさを目の当たりにして、それを耐えるのが「大人」になることだ、そう自分に言い聞かせる麦。一方で、美しいものや楽しい時間を大切にして、それを抱えて社会に出て、仕事に活かして何が悪いんだと訴える絹。かつてカラオケできのこ帝国を一緒に歌い、今村夏子の小説の話で意気投合し、ままごとの舞台を楽しみにしていた、同じものを見て、同じように笑っていた二人はもういない。否、「同じように笑っていた」と思っていたのは、ただの幻想だったと思い知らされる。

 本を閉じ、かつて花束を受け取り「わー」と言った、あの頃を思い返した。「花はいつか枯れる。だけど枯れてしまっても、そこに美しい花が咲いていたことは忘れない」。誰の心にもあるのだろう、戻ることは決してできない日々、忘れないと決めたあの季節を描いた、ごくごくありふれた物語。でも、ありふれてるって、なんでこんなに胸を締め付けるんだろう。

(リトルモア 1000円+税)=アリー・マントワネット