(C)佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

 西川美和にとって、長編では初となる原作ものだ。佐木隆三のノンフィクション小説を基に、人生の大半を獄中で過ごした元殺人犯が、更生し、いかに社会になじんでいくかを描く。デビュー作『蛇イチゴ』から『ゆれる』『ディア・ドクター』『夢売るふたり』と“犯罪”を題材にし続けてきた監督だけに、オリジナル脚本でなくても彼女らしさは全開だ。

 何といっても役所広司が素晴らしいのだが、彼が演じる主人公は、切れると底が知れない怖さを感じさせるものの、基本的には純粋で正義感が強く、曲がったことを許せない。そんな彼を通して浮かび上がるのは、前科者に冷たい社会という以上に、妥協しないと生きられない日本という国の窮屈さだ。コロナ禍で同調圧力が一層強まる中、まさにアクチュアルな映画となった。

 もちろん、それは運だけでなく、西川監督の社会へ切り込む鋭くも透徹した視点のたまもの。本作でその透徹=客観性を担うのが、主人公を取材する若いTVディレクターの存在だ。取材といっても、彼は佐木隆三のポジションでも我々観客の目の代わりでもない。原作には登場しない(モデルらしい人物はいるが、原作ではほとんど機能していない)彼もまた、西川監督が我々に突き付けるテーマの具現者なのだ。外へと向かう社会派のまなざしと、反対に内へと向かう内省のギャップこそが、西川美和の唯一無二の作家性だろう。★★★★☆(外山真也)

監督・脚本:西川美和

原案:佐木隆三

出演:役所広司、仲野太賀

2月11日(木)から全国公開