落としてしまう直前のシーカヤック(通報者提供)

1月下旬、シーカヤックユーザーの男性から「118番」によって第八管区海上保安本部運用司令センターに1本の通報がありました。通報の内容は、「福井県の漁港で、シーカヤックを引き揚げていたところ、消波ブロックの間から海に落としてしまい回収できなくなった。ケガもなく救助の必要はないが、落ちたシーカヤックを見て海難事故と間違われないように通報しました」というものです。

何の音沙汰もなく本人が現場を離れて海に浮かぶ無人のカヤックが発見されたならば、乗船者の転落など海難事故の発生を視野に入れて対応勢力を投入することになるので、こういった通報は、海上保安庁にとってとてもありがたいものです。
通報をいただければ、海上保安官が現場に行って落ちたものの確認ができ、またその後の対応についてもサポートができるかもしれません。

敦賀海上保安部からあらためて通報者に連絡し、経緯を詳しく聞くと、「漁港内からシーカヤックで出港したものの、漁港の沖にある防波堤を超えて外海に出ると、急に強い風と高波を受けてコントロールできなくなり、近くの消波ブロックから上陸した。そして、カヤックを消波ブロックに引き揚げて移動しようとしたところ、誤って消波ブロックの間から海に落として回収できなくなった。」ということでした。

ところが、通報者の男性、ここからの対応に困ってしまいました。


ようやく連絡がついたその時には、通報者はすでに県外の自宅に帰宅しており・・・「古いカヤックなので放棄します。」と・・・。
海上保安庁に通報を入れたからといって、落としたカヤックを放置して帰ってしまうのではなく、その後の海上保安庁の調査確認に協力し、最後まで自分で使っていたカヤックについて責任を持ち続けなければなりません。

敦賀海上保安部から職員が現場の確認に向かったっところ、現場の漁港周辺の海はかなりの強風と高波。海上には漁船やプレジャーボートの姿もなく、とても小さなカヤックなどで出港できるようなコンディションではありませんでした。
漁港の内側は防波堤の陰となっていて、波や風の影響を受けにくい状況ではありましたが、外海となると状況は一変します。
今回は、なんとか近くに上陸することができましたが、高波を食らって1人で海に放り出されていれば命の保証はなかったことでしょう。
事前に気象と海の状態を把握すること、それに、遠方からはるばる来たからといって決して無理をしないことが重要です。

余談ですが、この翌日、「福井県南越前町の海で黄色っぽいボートのようなものがひっくり返って浮かんでいる」という情報が敦賀海上保安部に入りました。
職員は、「昨日のシーカヤックはオレンジ。やっぱりそれが流れ出たのでは?場所的にも比較的近いし。」という思いがよぎります・・・
が、ことは常に最悪の事態を想定しなければなりません。今回こそ誰かがボートから海に落ちてしまったかもしれないからです。
巡視船、航空機、陸上からも海上保安官が通報現場付近の海域に向かい、通報者とコンタクトをとりつつ、現場の“黄色っぽい物体”を確認したところ、昨日のカヤックでもほかの転覆したボートでもなく黄色の浮きが付いた“漁具の切れ端”が集まったもの。つまりゴミ。誤報でした。
最悪の事態とならず安堵したものの、早速昨日のシーカヤックが今回の救助活動に先入観を持たせるなど、若干なりとも影響を及ぼしていることに間違いはありません。

このカヤックの所有者は、「後日必ず回収作業にあたります」と約束してくれました。
このような、海難事故に起因しない無人漂流船の取り扱いが多く、難しい課題の一つになっています。
無動力の手漕ぎボートなどには、そのボートの所有者につながるような固有の番号などが無いことが多いため、無人漂流していた場合に原因の調査が困難となります。
そのため、手漕ぎボートやカヤック、SUPなどの所有者には、そのもの自体に「氏名」や「連絡先」などの表示をお願いしています。

しかし、格好悪いなどの理由で、なかなか実際に行っていただいているものは少ないのが現状。何かスマートな方法はないものでしょうか?・・・

常識、モラル、ルール、マナー。
海の上だけでなく、人が生活するうえで守らなければならないことはたくさんあります。
そのような“日常”の生活から抜け出して、“非日常”として「海」を楽しみ、たくさんの良い思い出を作っていただきたいです。
ですが、“常識”までも抜け出して、“非常識”とならないように気を付けていただき、安全に海を楽しんでください。
海に落としたものを放置すれば、その後始末をするのは「海」を生活圏とする人々。
前述した救助活動への影響のこともそうですが、もっと単純に「きれいな海を守る」ためにも、責任ある行動をお願いします。(敦賀海上保安部・うみまる)