自らの名前を冠した3枚目のソロ・アルバムです。ポールはこれまで18枚のソロ・アルバムをリリースしていますが、セルフタイトル・ソロは70年のビートルズ解散時に生まれた1作目、ウィングスの活動を終了した80年の2作目とキャリアの中で大きな変化と崩壊が起こったタイミングに発表されました。前作『エジプト・ステーション』の評価も良くセルフタイトルの3作目は予想されていませんでしたが、突然のリリースは彼のキャリアではなく世界の崩壊の危機、そうパンデミックが引き金になったのです。

 ロックダウン時にイギリスの農場で過ごしていた彼はその人生と音楽の本質を熟慮した作品を作り始めました。それはデジタルではないリアルな人間の心と音、メールではない手書きの年賀状のようなものと言えます。心のおく底を描くシリアスな詞の中にも希望を歌います。そして何よりもすべてポール自身によって演奏される手作りサウンドが改めて音楽が人の手から生まれるものだと気づかせてくれるのです。

(ユニバーサル・スペシャル・エディション2500円+税)=北澤孝