まず装丁が気に入った。まえがきもあとがきも著者略歴もない。目次は……巻末にあった。小説家や翻訳家など16人の短い文章を収めている。作品と作品の間のページに時々「金色は色ではない」という思わせぶりな一文が小さく記されている。正体不明だが、いい本のような気がする。

 自宅でググって「正体」の輪郭をつかんだ。書き下ろしの短文を集めたアンソロジー「kaze no tanbun」シリーズの第2弾。日本翻訳大賞を創設した小説家で翻訳家の西崎憲が企画した。短文とは「小説でもエッセイでも詩でもない、ただ短い文。しかし広い文」を指すという。執筆陣には円城塔、藤野可織、星野智幸、宮内悠介らが名を連ねる。

 最初から読んでいく。これはたぶんエッセーだろうな。SF、幻想小説、散文詩?、寓話、伝奇小説……。長さはバラバラ。タイトルの「移動図書館の子供たち」に関係ある作品もあるが、無関係なものも多い。次に何が現れるか見当がつかない。スリリングだ。

 「短文」という括りで読んでみると、小説や随筆やコラムといったジャンル分けにはあまり意味がないように思えてくる。そこにあるのは、書き手の記憶や感情、思想、想像が結晶した言葉の連なりである。共通点と言えば、文章の純度が高いことだろう。文体はさまざまだが、それぞれ丹精を込めてつづられている。

 16編の中で木下古栗の『扶養』を面白く読んだ。お店で紅茶を飲んでいた「私」は斜め前の美しい女性と何度か目が合う。店を出たら、追いかけてきた彼女が「英気を、養ってくれませんか?」と言って両手を私の胸に押し付けた。ニュースで長期休養していた女優が復帰することを知る。彼女だった。私は会社を辞めて今も無職のままでいる――という話。

 意味不明だ。そして意味不明の話が好きだという自分の好みがわかった。企画者の言う「短い文。しかし広い文」の「広い」とは、読み手が思いを広げるスペースが大きいということではないか。やっぱりいい本だった。

(柏書房 1800円+税)=片岡義博