あるトピックについて考える時、視点や切り口はなるべく多いほうがいい。東京オリンピックの開催なら安全性、経済効果、選手の事情、海外の見方、過去の事例、次回への影響……。コロナ禍にある世界の政治、経済、社会、文化の各トピックについて、本書ほど多彩な論点を盛り込んだ読み物はめったにないと思う。

 まず成り立ちからユニークだ。米国のオンライン情報メディア「Quartz」に毎週、特定のトピックについて異なる観点の記事5〜10本のミニ特集が掲載される。その特集を「Quartz」日本版向けに編集した読み物27本を収録した。

 編集といっても、日本の話題や文脈に沿って換骨奪胎し、自家薬籠中のものとしている。例えば問答形式にして、聞き手と話し手2つの立場から語る。つまり海外の視点で多角的に論じた記事を異なる2つの視点で読み解くため、1つの読み物には実にさまざまな論点が盛り込まれるのだ。

 試しに「メンタルヘルスの転回点」の議論を追ってみる。(1)ネットやSNSによる誹謗中傷でタレントが自殺した。加害者やプラットフォームの責任追及も重要だが、有名人を管理する企業や業界の責任も問われるべきだ(2)加害者も実は鬱屈しており、これは「SNSの使い方」というよりメンタルヘルスの問題だ(3)海外で「心の健康」は最重要の政策課題であり、英国には「孤独担当大臣」もいる(4)欧州で孤独はテロや極右の温床として問題視される(5)コロナ禍による巣ごもりはさらに人々を孤独に追いやる恐れがある(6)コロナ禍を機に電話やオンラインによるカウンセリングの需要も高まるだろう――。

 「デリバリー」「リモートワーク」「サブスク」「香港問題」といったキャッチーなテーマが3段組、約450ページで論じられる。といっても雑談、ゴシップありのトークは「面白くてためになる」。巻末にデジタル技術を用いたコロナ対策で世界の耳目を集めた台湾のオードリー・タンへのインタビュー記事を収録。世界の今を考えるために役立つ一冊だ。

(黒鳥社 1600円+税)=片岡義博