これから先、滅びてゆくであろう職業を並べた記事が出回ったのは何年前のことだったか。「AI」をはじめとする、あらゆる技術の革新によって、必要がなくなる職業の数々。そこに自分が軸足を置いていた「ライター」業が挙げられていて、ああそうか自分は必要のない存在として老いていくのだと、何とも言えない感慨に浸った記憶がある。

 この物語の舞台は昭和30年代、映画界が華やかなりし頃に、照明技師として生きた男の人生譚だ。映画屋に限らず、この時代はあらゆる人々が、自分が歩む道の先に待ち受けているのは光であると信じていた。すべての道は右肩上がりで、その道程は「成長」と「発展」でしかなく、まさか「落日」や「失望」につながっているなんて思いもしなかった時代。主人公は、とある偶然の成り行きで、照明部の下っ端として撮影所に居着くことになる。

 彼が目の当たりにしていくのは、映画業界の来し方行く末はもちろんのこと、そこを行き交う人生の機微である。脚本部に採用された新人は、女性であることを理由にただ飼い殺しにされている。才能を認められ期待を一心に受ける監督志望の青年は、撮影所での権力を握るために仲間づくりに躍起だ。出世コースとは無縁に見えたもうひとりの青年は、ヒットへの足がかりを得るや、意外な一面をあらわす。きらめくスター女優はやがて、自らの老いに向き合ってゆく。

 時間が重なるごとに、登場人物たちはそれぞれの分岐点を過ぎ、それぞれの道をゆく。何を成功と呼び、何をそうでないとするのか。成功とは、ヒット作を監督することか。一流(とされる)監督からの信頼を受け、歴史に残る名作に名を連ねることか。互いの腕と人間性に信頼を置き、仕事を重ねることができるパートナーを得ることか。素敵な妻や夫を得ることか。死ぬまで現役で居続けることか。――答えはひとつじゃない。成功と失敗、希望と失望、光と闇が渾然となった人生を、誰もが生きる。

 彼らが生きる映画界は、テレビの登場によって大打撃を受ける。2021年現在、今度はテレビが、動画サイトによって大打撃を受けている。そこにもまた、数え切れない人間ドラマがあるのだろう。すべての、かけがえのない人生に、拍手を贈りたくなる一冊である。

(潮出版社 1800円+税)=小川志津子

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