相談所を「ねじろ」にしている猫=福井県坂井市

 新型コロナ禍による緊急事態宣言が11都道府県に発令され不要不急の外出自粛が要請された上、福井県では大雪に見舞われた1月のある日。観光名所である東尋坊は商店街の休業店が多く閑散としていましたが、そんな中、30代の男性が私たちの悩みごと相談所に訪れました。男性は自殺を思い立って東尋坊に来ましたが、相談所に足を運ぶきっかけを与えてくれたのは、一匹の黒毛の野良猫でした。

 男性は5年前に結婚。ローンを組んでマイホームを持ち、結婚3年目には長女が誕生。順風満帆の新婚生活かと思われましたが、男性の妻が産後にうつ病を発症しました。翌年に長男が生まれましたが、妻はうつ病からか育児放棄するようになりました。男性は妻の気持ちに同調しようと努めたつもりが、夫婦で子どもへ心理的虐待をしてしまう事態に。妻の気持ちになお寄り添おうとしたもののうつ病について理解することができず、ついには妻に対してDVを繰り返してしまいました。夫婦関係は悪化し離婚話にまで発展。東尋坊を訪れる2日前、妻に対する暴力が警察沙汰となり、妻は子ども2人を連れて実家に戻ってしまいました。両家の親同士も暴言を吐き合うようになり断絶状態。離婚話は進行中で、今後、子どもの親権争いや妻への暴力に対する裁判があるとのことでした。

 疲れ果てて東尋坊にたどり着き遊歩道を歩いていたとき、出合ったのが一匹の野良猫でした。この野良猫に心を奪われ、ついていったところが相談所だったのです。この黒毛の野良猫は実は、私たちの相談所を「ねじろ」にしている7匹のうちの1匹なのでした。私たち団体は、自殺企図者の心を癒すためアニマルセラピーを目的に餌を与えて可愛がっていました。

 男性は、うつ病という病気について理解できなかったことを悔やみ、夫婦間の問題に両家の親が介入し修復困難になっていること、そして心理的虐待をしてしまった子ども2人との関係を取り戻すことが離婚によって永遠にできなくなると思い悩んでいました。私たちは男性の言葉に耳を傾け、自宅で子どもを中心とした普通の家庭を取り戻したいと願うなら、妻の親に対して何百回でも頭を下げるなどして許しを請うことをすすめ、「勝たなくてもいい。負けたらあかん」と伝えました。

 男性は、抱えていた悩みから「逃避」するため、「家庭崩壊」「離婚」「自殺」の悪夢の連鎖をたどっていったのです。大切な存在である子ども2人は、人間として成長していく上でこれから重要なときを迎えます。そんな子どもたちにとって、この男性と妻は必要不可欠な存在だと私は思います。だから周囲の人が、軽々しくも「離婚」を推奨してほしくないと思います。奇しくも、一匹の猫によって与えてもらった出会いによって、男性の未来が少しでも明るくなれば、と祈らずにはいられません。

  ×  ×  ×

 福井県の東尋坊で自殺を図ろうとする人たちを少しでも救おうと活動するNPO法人「心に響く文集・編集局」(茂幸雄代表)によるコラムです。

 相談窓口は電話=0776817835