スタッフが著名人の家系をさかのぼって調査するドキュメンタリー番組がある。

 調査の結果、あなたの一族は元々○○地方の出身で△△業を営んでいた、とか、母方の高祖父は江戸時代こんな業績を残した、などとさまざまなエピソードが明らかになってゆく。

 結果をまとめた映像を、子孫にあたる著名人が見ているときの表情がいい。やや緊張した、真剣なまなざし。初めて知る事実に心を動かされ、涙を流すこともある。

 というようなNHKの人気番組があるが、僕たちの業界でファミリーヒストリーといえば医療情報限定である。

 一つの例として、両親が高血圧症だと、子どもも高血圧症になる可能性が高い。

 だから、血縁者の病歴と傾向から、あなたの健康管理の方針を立てることができる。欠点弱点のない人はいない。ウイークポイントがどこにあるのかを、血縁者の情報からあたりをつけるのだ。

 日本人の寿命は脳卒中、心臓病、癌(がん)の三つで決まる。脳卒中は脳の血管が詰まったり切れたりする。心臓病の代表格である心筋梗塞は心臓を栄養する血管が詰まる。脳と心臓、場所は違うがどちらも血管の病気といえる。つまり血管の病気と癌をマークすれば相当の年齢まで健康で長生きできる。血縁者に多いのは血管の病気か、癌か、それとも両方かを考えてみればよい。

 血管の病気を引き起こす危険因子は主に五つ。高血圧、糖尿病、脂質異常、肥満、喫煙だ。一つでも多いと、早く脳卒中や心臓病になりやすい。

 喫煙は癌の危険因子でもある。禁煙は難しいけれど、周囲の大切な人を受動喫煙から守るためにも頑張ってみてください。受動喫煙は喘息(ぜんそく)や子どもの知能低下、小児がんの原因にもなることが知られています。

 残り四つへの対処法は、よく言われることだが生活習慣の改善、まずは運動から始めよう。

 そんなこと言ったって、これからの冬は寒いし、天気悪いし。暖かい季節ならウオーキングとかするんだけど。と思ったあなたにはハイブリッド式運動習慣がお勧め。天気が良ければ外で、悪ければ屋内でできる運動を決めておいて、どちらかは必ずやる、と強い気持ちで取り組んでみてください。

 屋内運動は、すきま時間でできるものを。仕事や家事の合間に、特別の準備が要らないスクワットや階段上り等を1日に何回か続けて習慣にしてしまう。食事に関しては毎食サラダを最初に食べるサラダファースト。僕もやっているけどなかなかいいです。食べ過ぎを防ぐ効果、あると思います。

 血縁者の傾向をマークするときは両親、祖父母、おじさんやおばさんたちから情報収集。尋ねることができる相手がおられるなら、ぜひ病気のこと、体のことを訊(き)いてみよう。後年きっとあなたの健康管理に役立つだろう。
 話を聞くうちに、体のことばかりでなく、今まで知らなかった一族のエピソードに出会えるかもしれない。

 そういえば、あの番組はなぜ人気があるのだろう。著名人の近親者の情報を知りたいという好奇心もあるかもしれないが、それだけではない。

 「どこかの誰かのこと」として始まるけれど、ストーリーに引き込まれるうちに、いつのまにかひとごととは思えなくなる点ではないか。

 誰かのご先祖さまの体験を聞きながら、自分のご先祖さまの身にも似たような出来事があったかもしれないと思い、共感が生まれる。誰かの人生をたどりながら、わが身の来し方行く末を考えるきっかけになるのだ。

 歴史は靴だ、と歴史学者の磯田道史さんは述べている。歴史を学ぶ意義は、過去を知って、現代の自分が安全に生きる道具とするところにある。安全に歩く道具、すなわち靴を得るのが歴史学の目的だと。

 家族の歴史を知って、あなたがこの先の人生をよりよく歩くヒントを見つけてください。僕たち医療者は、そのお手伝いをするのが仕事なのです。

⇒エッセー「時の風」一覧

 【てらさわ・ひでかず】1952年福井県あわら市(旧金津町)生まれ。金沢大学医学部卒。福井県立病院救命救急センター勤務を経て福井大学救急医学教授、総合診療部教授などを歴任。同大名誉教授となった今も各病院に赴き研修医の指導に関わる。著書の「研修医当直御法度」は改訂6版のロングセラー。