初めは淡く、やがて濃い色が浮かび上がってくるような1冊。14歳の少年の成長物語であるだけでなく、人生に行き惑う大人たちの内面にも深く分け入る。ゆっくり熟成させるように読むことをお薦めしたい。

 1950年代のカナダの辺境で暮らす主人公の少年ノアは、友人のペリーが一輪車に乗ったまま湖で溺れて命を落としたことを無線で知る。毎年夏にペリーの一家と過ごしていたノアはその小さな村を再訪し、数カ月を送ることになった。村には先住民クリー族の人たちが多く暮らす。郵便物を積んだ小型飛行機が時折行き来するほかは、辺境の自然が静かに住民を包み、人々は遠い都会からラジオを通じて届く小説の朗読や音楽を楽しみにしている。

 物語の前半はペリーの突然の死を家族と村の人たち、そしてノアがどのように受け入れようとするかを描く。後半は父親の不在に苦しむノアと母親のミナ、一緒に住んでいるいとこの少女シャーロットの姿を、大都会トロントの映画館「ノーザン・ライツ」を舞台に展開する。登場人物たちは何かの屈託を持って、ある時は後悔し、ある時は深い思いやりを見せる。

 ページをめくりながら思った。亡き人をそばに感じることがあるように、私たちは存在と不在を心の中で明確に区別する必要はない。今はもう届かない夢をふと反芻することもある。思い通りにいかない人生と折り合うのは難しいものだ。「人は喪失そのものになってはいけない、逃げ去る幸運そのものにはなれないのと同じように」。本書のこんな一節をかみしめた。

 一方、この小説に備わっている明朗な肌合いには慰められる。父との葛藤を繰り返しながら成長するノアの声は闇を切り開く曙光のようだ。「ここではみんな問題を抱えてるってことだね、母さん。あとで話そう、いい?」

 本書を読んでいる時、キース・ジャレットが脳卒中による体のまひのため、公演活動を続けることが難しいようだというニュースに触れた。75歳の名ピアニストの復活を祈る。折しも、新譜「ブダペスト・コンサート」が日本でリリースされたばかり。繊細で柔らかな一音一音は、本書の中にある辺境の厳しい自然、人物の内面の揺れと響き合う。

 「見えないものをたしかめる」。本書の章題の一つが、とりわけ重要なフレーズに思えてならない。

(みすず書房 4000円+税)=杉本新

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