“グリーン”の風が吹き始めた。バイデン新大統領が誕生すれば、アメリカはパリ協定に復帰し、コロナからの経済復興策として、脱炭素などに力を入れる200兆円のグリーンリカバリー(緑の復興)を推進する予定だ。

 菅総理は所信表明演説で、ついに2050年に二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロにし、脱炭素社会をめざすと宣言。福井県も、国よりも早く、7月に策定した「県長期ビジョン」の中で、50年のゼロカーボンを表明した。そこに描かれている40年のふるさと福井の姿を一部、ご紹介しよう。「CO2フリーエネルギーの先進県として、エネルギー循環型ハウスや自動運転車、遠隔医療など最新技術が集積するスマートタウンが県内各地につくられ、多くの若者や移住者が快適に暮らしている」。なんだか、ワクワクしてくるではないか。

 ビジョンを決める際、有識者等の集まりである長期ビジョン推進懇話会の座長を務めたのが進士五十八(しんじいそや)さん、私の生まれ育った永平寺町にある福井県立大の学長だ。先日、福岡県宗像市で開かれた国際環境会議で、進士さんにお目にかかるご縁があり、その素晴らしい先見の明に感銘を受けた。

 進士さんは、造園家・環境学者として世界的に著名で生物多様性やまちづくりの専門家だ。小学校時代、疎開先として自然豊かな福井で過ごし、そこで育まれた美への感性が自らの原点だという。

 16年に県立大の学長に就任、県の持続可能性を支え高める研究開発、社会貢献をめざしている。今年春には、“創造農学科”を新設。この戦略からは、持続可能性=サステナビリティがいかに今の時代に必要か、揺るぎない思いが感じられる。

 改めて県の長期ビジョンを読んでみる。例えば「自然といっしょに未来を育てる夢がかなう農林水産業」という将来イメージでは、福井の生活や文化、農山漁村の風景を形づくってきた農林水産業が、最新技術の活用やプレミアムブランドの創出により「稼ぐ力」を一段と高め、若者が憧れる新たな成長産業に飛躍、とある。

 日本ではあまり注目されていないが、実は農林水産業は、脱炭素化を進める上で大きな鍵を握っており、世界中で動きが相次ぐ。

 従来型の農業はCO2の大きな排出源となっていて、変革が必須とされている。一方、水を蓄える水田や森林は、異常気象が増える中、減災に役立つグリーンインフラとして極めて重要であり、私たちの共有財産として評価し、きちんと管理していかなければならない。また、海もCO2の吸収源として期待されており、持続可能な水産業に転換することが欠かせないのだ。

 そして、何よりも食とエネルギーの地産地消こそは、コロナ後に求められる分散型社会構築の要であり、ここに英知を注ぐことは、福井県の未来にとって重要な役割を果たす。その意味でも故郷に生まれた創造農学科に集う若者たちが、どんな時代を切り拓(ひら)いてくれるのか、本当に楽しみだ。

 脱炭素に貢献しながら、地域の活性化に役立つ新しい農業を模索するのは、夢のある仕事になるだろう。地球環境にも健康にも優しい美味(おい)しい地元の食材や、農山漁村での魅力的な滞在体験は、観光業の切り札にもなる。

 人口減少と高齢化が加速する中で、自動運転技術やIoTを生かしたスマートな農業にチャレンジすることにも期待が高まる。今や、ゼロカーボンを合言葉に世界中の投資資金が、“グリーン”な伸びしろを目がけて集まってくる時代だ。ベストセラー「シン・ニホン」の著者である慶応大教授の安宅和人さんも、デジタル・トランスフォーメーション(DX)が、サステナブル・トランスフォーメーション(SX)と重なる領域こそが、沈みゆく日本を復活させる上で重要だと語る。であるならば、福井発で、世界がめざす「福井モデル」を確立できれば、幸福度日本一を誇る福井の持続可能性はより一層高まり、新たな産業を築いていけるのではないか。

 今、来年1月3日放送の「グリーンリカバリー」の特番を制作中だが、気候危機の進行で世界の変革のスピードは増している。福井もぜひ“グリーン”の風をつかまえて、一緒により良い未来を作っていこう。

⇒エッセー「時の風」一覧

 ■げんだつ・きょうこ 1965年永平寺町(旧松岡町)生まれ。早大卒。NHK入局後、報道番組のディレクターとしてNHKスペシャルやクローズアップ現代を制作。プロデューサーとして環境キャンペーンの責任者を務め、気候変動をテーマに数多くのドキュメンタリーを放送している。著書に「脱プラスチックへの挑戦」など。日本環境ジャーナリストの会副会長。