【論説】菅義偉首相の誕生から2カ月。首相といえば、「総理大臣」をタイトルにしたドキュメンタリー映画が話題になっている。それは「なぜ君は総理大臣になれないのか」。小川淳也衆院議員(49)=立憲民主党、5期=の17年間にわたる苦闘と挫折を大島新監督が追い続けた。福井市のメトロ劇場で先日公開され、全国各地で上映が続いている。

 高松市出身の小川氏は東大法学部を卒業後、自治省(現総務省)に入省した。2003年7月、32歳で退職。11月9日投開票の衆院選に民主党公認で香川1区から初出馬した。その1カ月前。衆院が解散された日に両氏は初対面した。

 使命感に燃える小川氏はまっすぐな目で語る。「政治家がバカだとか、政治家を笑ってるうちは、この国は絶対に変わらない。だって政治家って、自分たちが選んだ相手じゃないですか」。そして、やるからには首相を目指すと宣言する。

 初陣は落選。その後も「地盤、看板、カバン」はなく、苦戦が続く。比例復活でかろうじて議席を死守しているものの、党内では立場が弱く出世も遅い。

 政界の荒波にも翻弄(ほんろう)される。17年衆院選では希望の党騒動に巻き込まれ、党公認か無所属かで悩む。「途方に暮れそうになる時があるんです。つまり政治に必要なのは、誠意とか、一本の筋道とか、人望とか人徳とか、そういう教科書的な考え方があるじゃないですか。でも小池(百合子)さんとかを見てると、政治に必要なのはただ一つ、“したたかさ”だけなのかと。そういう無力感に襲われる時がありますよね…」

 民主主義のあるべき姿も語る。「何事もゼロか100じゃないんですよ。何事も51対49。でも出てきた結論は、ゼロか100に見えるんですよ。51対49で決まってることが。政治っていうのは、勝った51がどれだけ残りの49を背負うかなんです。でも勝った51が勝った51のために政治をしてるんですよ、いま」。初出馬した32歳の時に発したこの懸念は、後に消えるどころか、近年の「分断政治」をまさに言い当てている。

 17年の東京都議選で演説に立った当時の安倍晋三首相は、やじを飛ばした聴衆を指さし「こんな人たちに負けるわけにはいかない」とやり返した。菅首相による日本学術会議の会員候補6人の任命拒否は、異論の排除で多様性に傷を付けた。ひるがえって米国はどうか。大統領選で勝利宣言したバイデン氏は、トランプ氏陣営に「敵ではない。同じ米国民だ」と融和を呼び掛けた。彼我の差を痛感する。

 政治は果たして誰のものか。政治家とはどうあるべきなのか。映画「なぜ君―」は一票を投じる私たち主権者に問い掛けている。

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