越前市の越前和紙の里を舞台に9月中~下旬にかけて、今立現代美術紙展が開催された。コロナ禍でなかなか外出することができず、久しぶりに訪れた今立の空気感は格別の心地よさがあった。ものづくりのまちにはいつも、独特の魅力を感じる。風土と生業が分かちがたく結びつき、自然と共存しながらものを作ってきた歴史と、それを受け継ぎ次代に伝えていこうとする人々のエネルギーが感じられるからなのだろう。

 この紙展では、地域内外のアーティスト17人が和紙を用いて表現した作品が、古民家や施設などさまざまな場所に展示されていた。地域外から参加するアーティストは、一定期間滞在し、地域資源のリサーチや、住民との交流を通じ、土地から受けたインスピレーションを作品に反映させる。場の力と作家の表現が融合した、そこにしかない作品ができあがる。

 この紙展中に、シンポジウムに登壇する機会があった。その中で、アーティストは地域外から違う視点や発想を持ち込む漂泊者であり、住民は伝統を守り継承する定住者であって、定住者と漂泊者の相互作用が重要であると話した。漂泊者、定住者という表現は社会学者の鶴見和子氏(1918~2006年)の言葉を借りているが、同様のことは風の人、土の人という言葉でもよく語られる。

 外部からやってくるのが風の人、土地に根付いて暮らすのが土の人である。風の人たるアーティストは、地域の中では当たり前になり見過ごされがちな魅力を発見することにたけた存在である。彼らにとって、職人のすく和紙はもちろん、紙漉(かみす)きが女神によって里人に伝えられたという伝説や、紙の神様をまつる神社やお祭りの存在、それを支える人々の絆など、この土地にまつわる有形無形の文化全てが、創作欲を刺激する源泉となる。

 アーティストの視点から生まれた作品を通じ、土の人たる住民はまた地域の魅力を新たな角度から見つめ直す。和紙の新たな用途もアーティストの発想から生まれることがある。地域の発展には、伝統を守るだけでなく新しい発想を取り入れることが必要であり、それは風の人と土の人が織りなす関係性からもたらされる。

 シンポジウムの会場には、人間国宝である九代目岩野市兵衛氏もおられた。岩野氏は越前生漉奉書(きずきぼうしょ)の技法を守り続けていることはもちろんだが、紙展ではアート作品を出展している。その理由を尋ねられると一言「遊び心です」と発言され、会場一同感嘆の声がもれた。その道を極めたご仁には、守ることと遊ぶこと、つまり風と土の両方の性質が備わっているものなのだ。

 さて、越前和紙のみならず、近年、県内の伝統工芸に新しい風が吹いている。鯖江市、越前市、越前町にまたがる越前和紙・越前打刃物・越前箪笥(たんす)・越前焼・眼鏡・繊維の産地で工房を開放するイベント「RENEW」は2015年に開始して以降、年々範囲を広げて実施されている。県内外からの来訪者が増えるとともに、移住者の増加や地域の新しい動きにつながっている。これも地域住民の熱意と、移住者の若者の発想が結びついて生まれたものである。移住者を受け入れ多様な価値観を認める寛容性があってこそ、創造的で面白い動きが連鎖的に生まれる。

 さらに範囲を広げてみると、北陸には工芸の産地が多く存在している。これらをつないで「工芸の北陸」として面的に発信しようとする取り組み「GO FOR KOGEI 北陸で出会う、工芸の可能性」が今年初めて開催されている。RENEWや越前市の千年未来工芸祭を含め、北陸3県7地域の工芸産地で行われる工芸祭を連携して発信するものであるが、面としてみると、さらに各地の独自性が際立ち、北陸の風土の多様性に気づかされる。

 10月25日には金沢市に移転した国立工芸館が開館し、北陸の工芸にますます注目が集まる契機となるだろう。福井県内の工芸産地も連携を深め、追い風としたい。

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 ■あさくら・ゆき 1977年福井市生まれ。京都大文学部卒。東京芸大大学院音楽研究科博士課程修了。静岡文化芸術大、県立大等非常勤講師、岡山県、四日市市、鈴鹿市等文化関係の委員多数。共著に「文化で地域をデザインする社会の課題と文化をつなぐ現場から」(学芸出版社)