北川に残る霞堤の一つ。水位が上昇すると、途切れた堤防の間(赤丸部分)から水田などに水を逃がす=9月2日、福井県若狭町上吉田の上空から(地球研提供、一ノ瀬友博さん撮影)

 福井県若狭町から小浜市へと流れる1級河川北川に残る「霞堤(かすみてい)」の治水効果や生態系を守る機能を、総合地球環境学研究所(地球研・京都府京都市)が調査している。全国各地で豪雨による堤防決壊が相次ぐ中、あえて水をあふれさせて流域全体で受け止める伝統的な治水策として注目を集めている。研究者は「今まで(治水効果などを)数値化したものはなかったが、しっかり示すことで霞堤の保全につなげたい」としている。

 霞堤は、連続する堤防をあえて途切れさせ、河川の水位が上がった時に開口部から近隣の水田などに水を逃がす。水の勢いを弱め、決壊を防ぐなど減災効果があるとされる。北川には若狭町上吉田から小浜市丸山にかけて10カ所あり、全国の1級河川の中でもとりわけ多く残っている。

 水田などにたまった水は、河川の水位が下がると自然に戻る。開口部があるため水が引くのも早く、決壊時などに比べ農産物被害は軽減されるという。生き物も河川と流域を行き来しやすく、生態系を守る役割も期待できる。

 コンクリートなどの人工物を使った「グレーインフラ」に対し、自然環境が持つ機能を社会の課題解決に生かす考え方は「グリーンインフラ」と呼ばれ、霞堤もその一つだ。一方で、水田などにたびたび水が流れ込むため、住民の要望で連続する堤防に造り直すケースも多いという。

 霞堤のさまざまな効果を“見える化”して保全につなげるため、地球研のプロジェクトチームは2019年度から調査を始めた。コンピューターシミュレーションや現地調査を重ね、霞堤10カ所で水があふれた場合の流域の貯水量や流速の変化などを調べている。

 プロジェクトチーム代表の吉田丈人准教授(東京大学大学院准教授)=若狭町出身=は「流速を落とし、川の水位を下げる効果は確実に見えてきている」と話す。2カ月に一度行ってきた生態系の調査では、同じ場所でも生き物の個体数に違いが見られ、霞堤を通って行き来している様子が明らかになってきたという。

 霞堤の周辺の建物は、石垣で囲ったり土台を高くしたりして水害を避ける工夫が施されている。新たに霞堤を造る場合は、既存の建物に対策を施す必要があり、現実的には難しい。

 吉田准教授は調査結果を県民に示す方針で、「霞堤を残していくことは、水害リスク軽減とともに自然環境を守ることにもつながる。データを踏まえ、霞堤の保全の意義を考えてほしい」と話している。

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