こまもり箱(右上)やプロポーズ印鑑(手前中央)など新しい切り口で商品展開している小林大伸堂=福井県鯖江市

 政府が進める行政手続きのはんこ使用廃止を受け、自治体や民間企業にも「脱はんこ」の動きが広がっている。「必要なものは必ずあるし、これからも残っていく」。逆風の中、福井県内の印章業界は「時代の流れ」と冷静に受け止めつつ、はんこの伝統と技術に誇りを持ち続けている。商品開発に知恵を絞り、記念品など新たな需要を掘り起こしている店もある。

■唯一無二

 篆刻台(てんこくだい)と呼ばれる木製の固定器具に印章を挟み、照明を目いっぱい近づける。折目印房(福井市)の2代目、折目幸太郎さん(67)が5、6種類の印刀(いんとう)を巧みに使い分け黙々と彫る。粗彫りが終われば仕上げ。文字は行書や篆書、古印体など6種類。「根気がいるね。その時の気持ちによって同じ文字でも微妙に違う。それが味なんだ」。できあがった商品は、全てが唯一無二だ。

 折目さんは1級印章彫刻技能士の国家資格を持ち、昨年から県内のはんこ業15社でつくる県印章業組合長を務めている。

 これまでもパソコンの普及などで需要は少しずつ減少していた。行政手続きのはんこ使用廃止も「必然的なもの。手間を考えて、なくなるものがあることは仕方ない」と受け止める。一方で「『はんこ』とひとくくりにして悪者のように言われるのは…。その裏でつらい思いをしている仲間もいる」と語気を強めた。

■思い「しるし」に

 創業127年の小林大伸堂(鯖江市)の4代目、小林照明社長(57)は5、6年前から業界の先行きに危機感を感じていたという。5代目の稔明さん(33)とともに、女性をターゲットに、宝石を使った印鑑やプロポーズ時に指輪のようにプレゼントできる商品などを展開してきた。

 今年6月には、子どもの名前を印影に刻み、命名に込められた思いを記したきり箱に入れた「こまもり箱」の販売を始めた。「きり箱には防虫効果もあり、いつまでも記念に残る。県外を中心に2日に1個は注文が入る」と稔明さん。

 夫婦の名前を一つの印影にした商品なども手掛けており、照明社長は「技術を活用して本来の印鑑を守りながら、時代に合わせて形を変えていくのが老舗」と力を込めた。

 創業120年の松村好文堂(勝山市)の3代目で、県印章業組合長や北陸印章業連盟会長を務めた松村忠矩さん(77)は「今でもどうか作ってほしいという声もある。そうした人たちに喜んでもらえるはんこ屋であり続けたい」ときっぱり。「(組合の)若手の考えに賛同して背中を押してあげたいね」と穏やかな口調で続けた。

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