「お客さんの命を優先し、店名を公表した」と話す女性経営者=福井市の「カサブランカ」

 7~9月の福井県内の新型コロナウイルス感染第2波は、122人の感染者のうち半数以上がカラオケ喫茶関連だった。福井市の「カサブランカ」は、従業員の陽性が判明した直後に、店名の公表に踏み切った。以後、複数の店舗が公表し、第2波の収束につながった。10月2日にカサブランカの営業を再開した女性経営者(67)は「お客さんの命を最優先に考え公表した。ゼロからの出発。カラオケ喫茶は憩いの場。また歌いに来てほしい」と話す。

 夫婦そろって歌が好きで、息子夫婦と4人で9年前にオープンした。私の好きな花の名前を店名にした。気持ちよく歌ってほしいから、音響にこだわり最新機器をそろえた。

 「コロナ陽性なんや」。8月24日午後、体がだるくて休んでいた息子から電話が入った。保健所から、濃厚接触者として検査を受けるように言われた。店に6人ほどお客さんがいたが、謝ってすぐに店を閉めた。

 夫も感染していた。7月の石川県のカラオケ大会でクラスターが発生し、8月から県外客の利用を断っていたから驚いた。

 常連客には以前から「コロナになったら、うちは(店名を)公表する」と伝えていた。実際に公表するかを迫られ、すぐに決めた。経営者として、2人も感染したら黙っていられない。お客さんの命を最優先した。公表しないことで、臆測が飛び交う不安もあった。

 お客さんのポイントカードに書いた来店日や伝票を頼りに、感染の可能性がある人に検査を受けるよう頼んだ。夫の判明から3日後、私もせきが出るようになり2回目の検査で陽性と分かった。病院へ向かう車中、涙が止まらなかった。

 入院直後はきれいだった肺が、エックス線写真を撮るたびに影が出て、半分ほどが白くなった。血栓もできた。24時間点滴を受け、(治療薬候補の)アビガンは多い日で18錠飲んだ。

 「急変した時に、延命措置を希望しますか」。医師から言われて、危険な状態だと知った。一人で決めるのは難しいし不安だったが「(延命措置は)もういいです」と言った。このまま死んでしまうかも、と思った。退院は入院から30日後だった。

 入院中、友人からは「(店名を公表した)ママの勇気をたたえます」とメールが届いた。店や体調を気遣う友人、お客さんからの電話やメールに励まされた。生きる力になった。防護服を着た看護師さんたちも、優しく接してくれた。本当に感謝している。

 家族構成や感染前の私たちの行動など、根も葉もない臆測が飛び交った。無言電話もあった。店からウイルスがわいて出たように言われることが一番つらかった。感染者は加害者でしょうか。被害者ではないのでしょうか。

 店を再開する前、髪をばっさり切った。心機一転ゼロからのスタートという気持ち。店内の換気をよくし、客席のついたてを買い、ステージと客席の間にビニールシートを付けるなどの対策もした。でもお客さんは1日数人だけ。ほかの店も、お客さんが離れ苦しんでいると聞いた。安心して歌えるように、どの店も頑張っている。

 中傷が収まるには時間が必要かもしれない。だけど、生き生きと歌う高齢者を見ていると、カラオケ喫茶は大事な場所だと思う。今までのように憩いの場でありたいし、この業界を盛り上げていきたい。

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