イルカトレーナー・加藤篤さん

 どうやってイルカに技を覚えさせるの? トレーナーの専門学校って? 越前松島水族館(福井県坂井市)のイルカトレーナー・加藤篤さん(26)に、トレーナーにまつわる疑問に答えてもらいました。

 ■「ターゲット」を使って技を習得

 ―言葉の通じないイルカに、どうやって技を覚えさせるんですか?

 えさをご褒美にして、何日もトレーニングします。白いバーをイルカがジャンプで飛び越える「ハードルジャンプ」を例に説明します。

 (1)バーが危険なものではないと教えます。いきなりイルカの前に出すと、びっくりして寄ってこなくなってしまうので最初のうちはステージに置いておくだけ。徐々にイルカに近づけていきます。そのうち、ステージからバーをプールに出し、他の種目をさせたり、えさを食べさせたりします。

 (2)次はバーを水の中に沈めて、イルカにバーの上を通らせます。

 ここで「ターゲット」を使います。ターゲットというのは、棒にペットボトルやボールをつけたものです。実は、あらかじめイルカたちは「口先でターゲットに触ると、トレーナーが笛を吹き、餌がもらえる」とトレーニングして覚えているのです。だから、ターゲットに向かってイルカは泳ぎます。

 (3)慣れてきたら、バーを少しずつ上げていきます。ある程度の高さになるとジャンプするようになります。飛び越えたら餌をあげて褒め、どんどんバーを上げていきます。

 ■イルカと接するのは1日約1時間

 ―いつ技を練習しているんですか?

 朝の餌の時間と、ショーが終わった後です。それぞれ5~10分です。ショーは1日4回あります。ただ、朝は健康チェックが中心ですし、ショーの後では餌が残っていなかったらやりません。

 ―意外と短いんですね。

 うちの水族館では、イルカとかかわる時間はトレーナー1人あたり1日1時間ほどです。ショーも含めて。

 ―1日の仕事を教えてください。

 朝、まず餌をつくります。魚を切って、個体ごとに分量を量ります。イルカたちに「朝ごはん」をあげたら、プールなどを掃除して、日誌をつけます。ショーは1日4回で、そのうち数回出ます。アザラシやペンギンなど、ほかの海獣の世話もしています。「ペンギンの散歩」などのアトラクションもやります。

 ―イルカと触れ合う時間はけっこう貴重ですね。

 短い時間で、大事なのは健康チェックです。発見を逃すと、最悪、死んでしまうこともあります。全く普通に見えたのに翌日死んでしまった、というケースもあります。1時間だけなので、プレッシャーはありますね。

 ―健康状態はどういうところでチェックするんですか。

 いつもと同じ反応を返してくれるかどうかです。例えば、朝、初めてプールに行ったときに寄ってくるかどうかは必ず見ます。あとは表情とか。

―表情が分かるんですか。

 目の動きや反応で分かります。喜んでいるとか、つまらないとか。分かるようになるには4~5年の経験は必要だと思います。

■腕が違うと反応しない

 ―イルカに出すサインについて教えてください。

 うちの水族館では、例えば左腕を上げたら連続ジャンプです。右腕ではイルカは反応しません。「ハードルジャンプ」は白いバーを出すのがサインで、バーを出すとイルカが助走に入ります。

 ―すごいと思う他の水族館はありますか。

 和歌山県のアドベンチャーワールド。トレーナーがプールに入ってイルカとジャンプするなど、しっかりトレーニングされているんだなと感じますね。ショーも華やかです。

 そこに限らず、プライベートで水族館に行っても、サインなどが気になって見てしまいますね。

■雌を入れるとけんかする

 ―ショーに出ているのは雄? 雌?

 うちにイルカは6頭いますが、ショーに出るのは雄の2頭です。雌を入れると気にしてトレーナーの指示をきかなくなったり、雄同士でけんかしたりするからです。また、同じプールで雌を飼育すると、子どもができる可能性もあります。

 他の水族館さんだと、ショーに出るのは雌が多いですね。雄と雌では、できる能力に違いはありません。

 ―仕事で苦労はありますか?

 イルカのモチベーションを上げることですね。ショーが始まっても気分が乗らないときはあります。好きそうな種目を先にやってあげて、餌をたくさんあげて、褒めて、気持ちを高めます。

 ショーがうまくいかなかったら、2時間後の次のショーまでに方策を考えないといけないですから、悩みますね。

 あとは寒さ。真冬でも外でショーをするので、使い捨てカイロを貼ってダウンコートを着ます。

 ■イルカは「人を見る」

 ―「イルカは頭がいい」と感じることは?

 あります。こちらが求めている以上の行動をしてきます。トレーニング中も「これ飛べばいいんでしょ」という感じが出る時もあり、考えて行動しているんだなとは思います。

 ―ショーのとき、トレーナーが足元で餌をあげるときと、胸元であげるときがありますよね?

 イルカをしっかりコントロールするためです。トレーナーの胸元であげるときは、決められた高さまでしっかりイルカが口先を出す必要があります。低いときはあげません。それでイルカが「サボっている」かどうかを見分けます。

 イルカは、どれだけ楽をして餌をいっぱいもらうかを考えています。トレーナーが新人のときなど、サボっているのに餌をあげてしまうと、そのトレーナーの時にどんどん手を抜くようになってしまいます。

 ■イルカトレーナーの専門学校

 ―トレーナーになるための専門学校があるんですか?

 私は地元の愛知の専門学校に通いましたが、東京や大阪、仙台などにもあります。イルカの飼育管理やトレーニング方法を教わります。イルカだけではなく、アザラシやペンギン、魚についてもしっかり学びます。

 ―トレーナーは専門学校卒業生が多い?

 専門学校卒しか採用しない水族館・園もあり、大学卒のみの館もあります。うちは両方です。水産高校からの採用もあります。

 ―トレーナーの就職は難しい?

 正確には分かりませんが、けっこう倍率は高いのかなと思います。全国でイルカがいる水族館は50にも満たないでしょう。毎年求人があるとは限らないですし、出ても1カ所で1~2人。そこに、全国から志望者が集まります。

 私の同級生は約40人で、水族館やイルカとの触れ合い施設などの道に進んだのは半分もいません。

 求人では、イルカに携われることが明確な場合と、そうでない場合があります。水族館全体で1人、といった募集のときは、魚の担当になることもあるようです。

 ―トレーナーになりたい人にとって大切なことは?

 諦めないことです。専門学校在学中にトレーナーへの道が狭いと徐々に分かってきて、諦めてしまう人がけっこういます。履歴書が通らなかったり、面接で落とされたりしても、どれだけ折れずにいられるか。

 ―必要なことは?

 試験は、筆記、面接に加えて、泳ぎのテストをする水族館もあります。プールの掃除では泳ぎが必要ですから。仕事では人前でしゃべる機会が多いです。私はあまり得意ではなかったので、学生時代から意識的に人前で話すようにしていました。もちろん、動物への愛情は大切です。

次回のお知らせ

次回インタビューするのは、
鯖江市の洋菓子店ペルシュのオーナーシェフでパティシエの谷下昌則さん。
子どもからお年寄りまで楽しめるようなケーキ・お菓子作りをしています。
谷下さんへの質問を募っています。
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締め切りは10月27日です。話を聞きたい県内の職業や人も募集しています!

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