「一般的な旅館や民宿を利用できない化学物質過敏症のお客さんの役に立ちたい」と話す女将の松井あけみさん(右)と夫の明彦さん=9月、福井県美浜町松原の農家民宿「まつぼっくり」

 人工的な香りなどにより体調を崩す化学物質過敏症の人でも宿泊できるよう、建築資材や食材に配慮した農家民宿が昨年、福井県美浜町にオープンした。化学物質が持ち込まれないように、利用客は芳香剤などを使っていない人に限定している。認定NPO法人「化学物質過敏症支援センター」(横浜市)によるとこうした施設は全国的にも珍しく、女将は「一般的な旅館や民宿が利用できない過敏症の方の役に立ちたい」と話している。

 同町松原の農家民宿「まつぼっくり」。松原海水浴場まで約50メートルの場所にあり、1日1組最大6人程度を受け入れている。女将の松井あけみさん(61)が宿泊客と一緒に調理し、地魚や無農薬野菜を使った料理を味わってもらっている。

 以前は一般的な民宿として40年以上、海水浴客を中心に受け入れていた。業態を変えたきっかけは、夫の明彦さん(64)が化学物質過敏症を発症したこと。明彦さんは2017年ごろから人工的な香りが気になるようになり、徐々に症状が悪化。香りの強い洗剤で洗った服を着た人がいた部屋に入ったり、その人とすれ違ったりすると、頭痛に襲われるようになった。

 業態転換のために、キッチンと浴室を改修。自然素材のワックスを塗った床材、ウール(羊毛)製の断熱材など、化学物質が含まれないものを厳選した。壁のクロスの接着剤は化学物質を発散するものが多い中、ドイツ製の天然のものを採用した。

 19年6月に「無・芳香剤の農家民宿」として再オープン。せっけんやシャンプー、食器用洗剤などは全て化学物質が含まれていないものにした。

 予約時に、香り付きの商品を使っていないかどうか確認するため、必ずチェックシートに回答してもらっている。過敏症は個人差が大きく、人によっては症状が出る可能性もあるため、相談した上で利用を決めてもらっている。

 予約数を限っていることもあり、19年の宿泊客は延べ60人。前年の約1割に減った。今年は新型コロナウイルスの影響でさらに少なく、今夏は4組の利用にとどまった。一方で、過敏症やアレルギーが気になる人にとっては大きな“救い”となっており「なかなか分かってもらえず困ることが多いので、本当に助かりました」とリピーターになった人もいる。

 明彦さんは発症したことで、人工的な香りが身近にあふれていることに気付き「人ごとではなく、誰でも発症する可能性がある」と警鐘を鳴らす。

 あけみさんは「これから過敏症の人がもっと出てくるかもしれない。ほかでは泊まれない人を受け入れられる民宿にしたい」と話している。

 【化学物質過敏症】香料や化粧品、たばこ、塗料、洗剤、食品添加物、排ガスなどに含まれるさまざまな化学物質が原因で頭痛や吐き気などの症状が起きる。発症するとごく微量でも症状が出るようになり、重症化すると日常生活や仕事にも支障を来す。人工的な香りで体調を崩す「香害」被害者やシックハウス症候群もその一種とされる。厚生労働省は2009年10月に病名登録した。

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