昨年、福井県坂井市の東尋坊を訪れた際の辻真一さん。現在は寝たきりの状態だが、「ALSと共に生きる」と話している

 酒もたばこもやらない。食欲旺盛で健康そのものだった辻真一さん(66)=福井県勝山市=は2015年ごろから、体の異変を感じた。腹筋が妙な割れ方をしていた。腰から背中にだるさがあった。

 仕事は続けたが17年、足取りがおぼつかなくなってきた。同年8月、筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断された。

 走った後のように、日頃から肩で息をするようになった。18年5月、突然息ができなくなり救急搬送。数日後には気管切開し、人工呼吸器を付けた。以来、県内の病院に入院している。現在は寝たきりの状態だが、何とか自分の声や口パクで意思を伝えている。

⇒連載「ALSと共に_福井」はこちら(D刊)

 取材はメールのやりとりで行った。辻さんはタブレットにつないだコントローラーを使い、右手親指で1文字ずつタップして入力する。一つの質問に対し、数日かけて答えてくれた。

  ■  ■  ■

 自身の症状について辻さんは「胸を強い力で圧迫されたときの感覚。吸い込みたいのに吸えない苦しさ。次は手。麻酔注射をされた感覚。つかみたいのにつかめない歯がゆさ。最後は足。長時間正座した後、力が入らず転んでしまう感覚」。家族に気弱な姿を見せたことはないが、メモ帳には「どうして自分なのか」と書き込んだ。

 他のALS患者のブログを検索するようになった。ALS歴27年の人が印象的な言葉を残していた。「私はALSを持病だと思っている」。肩の荷が下りた気がした。「これからはALSと共に生きる。見た目が変わっても、私の実体は何も変わらないのだから」と思うようになった。

 死への恐怖はない。「誠実に謙虚に、生きられるだけ生きよう。私は家族を見て、家族の話を聞いてあげられる。これが幸せ」

  ■  ■  ■

 昨年は、妻の都子さん(65)が運転する車で何度かドライブをした。スーパーで買ったたこ焼きやお好み焼きを、細かく切って食べた。2人で「生きててよかったね」と笑い合った。

 辻さんは家族に介護を強いるつもりはない。「私のような難病者の介護は大変。家族介護は麗しいものとして称賛される文化があると思うが、家族にはそういった文化の呪縛から自由になってほしい」という。

 京都では、ALSの女性患者への嘱託殺人容疑で7月に医師2人が逮捕される事件があった。辻さんは「命を絶つことが(本人の)精いっぱいのサインだとしたら、あまりに悲しい。せめて一人でも心を開ける相手がいたら。強がっても一人では生きていけない。孤独が女性を押しつぶしたのかと思うと悔やまれる」と答えた。

 ■筋萎縮性側索硬化症(ALS) 体を動かすための神経に異常が生じて全身の筋肉が徐々に萎縮し、体が動かせなくなる難病。原因不明で、根本的な治療法は見つかっていない。福井県によると、6月末時点で県内には56人の患者がいる。日本ALS協会によると、国内の患者数は約1万人。

  ×  ×  ×

 進行性の難病であるALSの患者は、何を思い今を生きているのか。家族はどのように接しているのか。ALSと共に生きる県内の人たちを連載で追う。⇒連載「ALSと共に_福井」はこちら(D刊)

 

関連記事